『皆、ご苦労さま』
一連の戦闘をモニターしていた超駆動戦隊ドルブレイブのブレイン、おきょう博士より間髪入れず皆に通信が入る。
「流石に4体目となると、手馴れてきましたね」
「こらこら、そういうときが一番危ないんだぞ?気を引き締めろ」
アオックブレイブをたしなめるダイダイックブレイブだが、今この瞬間、やはりその声音には隠しきれない安堵が漂う。
超駆動戦隊ドルブレイブにおける識別名称、『マッド・ファクトリー』。
既に片手の指おりを越えようかという数の機体を、ドルブレイブの面々は相手にしてきた。
「それにしても幸いなのは、アカックとダイダイックが交戦したという我々に似せた機械兵士を生産してこない事ね」
クロックブレイブの言葉に、アカックブレイブの表情は僅かに曇る。
『そうね。アカックの報告にあった、ラギ雪原の研究施設。ハクギンブレイブがその身を引き換えに破壊してくれた一機が、恐らくホスト機だったのでしょう。データ受信が出来ないせいで、各個体のメモリー内の、一般的なマシン系モンスターしか製造出来なくなっているのは、本当に僥倖だわ』
タンッとおきょう博士が指揮車内のキーボードを叩くと、瓦礫の山に埋もれる形で、僅かにその姿を覗かせるマッド・ファクトリーの映像がスクリーンに映し出される。
ハクギンブレイブの自爆の影響で機能停止したこの一機の発見が無ければ、事態はさらに深刻な事になっていたに違いない。
マッド・ファクトリーはスーパーキラーマシンをベースとして、ある目的、すなわち、各地で報告があがり、相対する事ともなったドルブレイブに酷似した機械兵士を内部で製造する機構を持たされた、改造マシン系モンスターだ。
有事に際しての機密保持の為か、そのボディそのものが配置された施設のメインシャフトを兼ねており、それ故、黒光りする装甲はスーパーキラーマシンを遥かに上回る。
自慢のハンマーで凹み傷一つつかなかった際には、逆にアカックブレイブのプライドが凹んだ。
「しかし、果たしてあと何体潜んでいるのだろうか…」
目下、超駆動戦隊ドルブレイブの悩みのタネは、まさにブレイブ2号の発言のそれである。
各地に秘密研究所を建造し、マッド・ファクトリーを配備したマッドサイエンティストもまた、ハクギンブレイブと共に爆炎の中へ消えた。
残念ながらマッド・ファクトリーの総数も、そしてその潜伏位置も、全てを手探りで探っていくしかない。
『そうね、とにかく、マッド・ファクトリーが動き出せば、施設が柱を失って崩壊する仕組みだから、不自然な地盤沈下や、本来生息しないはずの地域にマシン系モンスターが多数目撃されたりとか…。現状、そういう場所を虱潰しにするしかないわなね』
先の見えない状況に、おきょう博士の声も曇る。
「対処療法、後手に回らざるを得ない状況、か…」
アカックブレイブが呟き、見上げた空には暗雲が立ち込めている。
そして遥か離れつつも、果てなく続く同じ曇天のもと、奇しくも『虎酒家』が居を構える村の近くの森。
「何とかして食べられないかなぁ…ソフトシェルクラブ的な感じに…」
倒した獲物はすべからく胃に納めるのが礼儀と心得るライティアは、今日も今日とて倒したキラーマシンを前に、頭を悩ませる。
そのまたさらに、森の奥の奥で。
『…斥候に展開したキラーマシンの…一定数の沈黙を確認…』
無機質な機械の合成音声とともに、巨大な強化ガラスレンズの1つ目が、不気味に血の色の光を宿したのだった。
続く