ロマンが、マージンが、マユミが、ハクギンが、レオナルドが。
皆がそれぞれに激を飛ばし敵へと向かう中、テルルは一人、未だ跪いたまま、マユミに投げかけられた言葉を反芻していた。
「…テルルちゃん。ここはね、いつかの明日へ続く回廊なの。ソワレちゃんもアジロくんも、ハクギンくんも、あいつに取り込まれた、その他大勢の人たちも。…私達と違って、この道を引き返すことはできない。それでも、この道を進めば、彼らはいつの日か、また違う命として、アストルティアへ巡る日が来る。それを、あんな奴に邪魔させたままじゃ、悔しいから。…先に、行くね」
何かまだ、自分にもソワレに、アジロに、皆にできる事が、あるのなら。
何ができる?
何を伝えられる?
散々泣いた。
散々喚いた。
散々悔やんだ。
あとは、歌うだけだ。
強く両手で己の頬を打ち、テルルは立ち上がった。
「クソッ、全然効いてる気がしねぇ…!」
えぐみレプリカに何度目かの回転体当たりをさせながら、ロマンは悪態をつく。
オリジナルをベースに操縦システムを改変したことが幸をそうし、複雑、難解な指示をえぐみレプリカは容易くこなし、操るロマン自身の負担も格段に軽い。
しかし、肝心の敵に加えるダメージは、芳しくない。
並行してハクギンブレイブの駆るドルセリオンブロスもまた、絶え間無くパンチとキックを応酬するが、一撃一撃にギガントナイトメーアは怯みこそすれど、何事も無かったように立ち直す。
そうしているうちにもギガントナイトメーアの全身からは、絶え間無くゆめにゅうどうが飛び道具代わりに放たれ、執拗にハクギンブレイブを目掛けて飛来する。
ハクギンが取り込まれてしまった場合、何がどうなるのかも気がかりだ。
レオナルドはハクギンブレイブを守るべくゆめにゅうどうを撃ち落とす事に専念するしかなく、結果、皆が今一歩踏み込んだ攻撃ができずにいる。
「可愛いねぇ。実に可愛らしい。食べてしまいたいくらいだよ」
そうのたまうと、ギガントナイトメーアは、夢にのぼせたような妖艶な笑みを強めた。
「列車を何故暴走させたのか。今教えてあげようねぇ!あははははははっ!」
ぞわぞわと大地が泡立ち、大量の蛆虫が這い上がるが如く、ギガントナイトメーアにまとわりついて行く。
人の思念に多大な影響を受ける、この生と死の狭間の世界。
なかでも恐怖の影響は非常に強い。
アストルティアの民に異常を察知されるリスクを承知で、幽霊列車を様々な大陸、とりわけグレンの上空で頻繁に暴走させた真の目的。
「有象無象の些末な騒ぎも、存外、役に立つものだ。グレンの住人には、未だ暴れ狂う大地の箱舟に対する根強い恐怖が宿っている。利用しない手は無いさね!」
現れるであろう冒険者による妨害を、確実に退けるための隠し玉。
「さぁご覧!そして絶望するがいい!お前たちの為に用意した、機械仕掛けのとびっきりの悪夢(トレインアーマードナイトメーア)だ!」
ロマンたちは情報としてしか知る由もない、グレンで起こった惨事。
海底離宮で合い対した魔博士が一人、プラクゥの手による変形機工呪文によりモンスターと化し暴れた大地の箱舟こと、魔工機兵レイダートレイン。
図らずもテルルとソワレが絆を深めるきっかけとなった魔物を模した、鉄機の装甲を身にまとい、ギガントナイトメーアは更なる巨躯へと変貌を遂げるのだった。
続く