大棟梁の合図を受けて、ハクギンとマユミは満身創痍のドルセリオンブロスにムチを打つ。
「「おおおおおおおおっ!!!」」
無事な両腕で体を支え起こすと、渾身の力で叩き付ける様に大地に拳を放つ。
消失した両脚分の重量が無い事も助けになり、不安定な体勢からの一撃ながら、したたかに地を弾いた反動で、ドルセリオンブロスの巨躯が大きく宙へ舞い上がる。
「良い高さだぜ!2体がかりで駄目なら、合体だッ!今こそ!!ドルセリオンブロス!えぐみレプリカ!ドッキング、ゴー!!!」
ロマンの雄叫びとともに、天高く掲げた右掌から小気味よいフィンガースナップの音が響く。
呼応して頭部を消失したえぐみレプリカの首接続部から背中にかけての構造物がパージされ、ロマンが新規に創造したパーツが露わになった。
首の代わりに拵えられた接続アームが、ジャンプしたドルセリオンブロスの腰部をとらえ、えぐみレプリカ自身を新たな脚部としてドッキングする。
本家えぐみマーク2と同じく巨木の生い茂っていたえぐみレプリカの背中には、テルルが依頼した、存分に歌うための円形のステージと、その随伴音楽を奏でる巨大な手回し式オルゴールが鎮座している。
そして、悠然と突き出した両の掌の前に展開された、五芒の星を模る巨大な魔力障壁が、集束天邪鬼砲を受け止め、消散させる。
その煙の中から、新たに天を突く一角のブレードアンテナを頂いたドルセリオンブロスの頭部が覗いた。
新たな4本の脚で大地を踏みしめ、威風堂々、腕を組み佇む、ドルブレイブと海底離宮突入部隊の象徴が融合した巨神。
「完成だっ!ドルセリオンブロス・フューチャリング・えぐみレプリカ・ギャラクティカケンタウロスライブステージエディション!!」
もはや早口言葉をも凌駕する命名に、噛まずにシャウトできることを褒め称えたい所ですらあるが、そんな長い名前は皆お断わりである。
「凄いぞ俺達のドルタウロス!!最高だぜ大棟梁!!!」
機転を利かせたマージンにより、さらっと適切な略称が設けられた。
不本意ながらも、度重なる創造構築と喉の限界を無視した雄叫びで、ロマンにはもはや悲しむ余裕すらない。
せめて作品の出来栄えにニヤリと微笑むと、後は任せたとばかりに仰向けで大の字に倒れ伏すのだった。
「最ッ高のステージよ、さすが我らが大棟梁!」
完璧以上に仕事を終えたロマンに謝辞を述べ、えぐみレプリカの脚部通路を駆け上がると、完成したステージに立つ。
「歌なら誰にも負けない。素敵なステージに、衣装も揃ったら、誰にだって、どこまでだって、この声を届けてみせる!」
傷付いた足を引きずる様に、演奏要員のマージンも後に続く。
最後の下準備。
深く深呼吸し、テルルは曲に合わせた衣装をイメージする。
想いをただひたすら、まっすぐ伝える為に。
色は無垢なる純白。
呼吸を妨げぬよう、お腹を空けたシンプルな装いで。
空高く、観客と共にはばたくが如く、頭には族長の髪飾りで羽根をあしらって。
自ら名付けた装束の名は、『天空の歌姫』。
イメージ通りに仕上がった戦闘服に身を包み、今宵、最後に奏でるナンバーは、既に決まっている。
アストルティアの民ならば誰もが耳にしたことのあるトク・ナーガの名曲にして、あの日、ガタラの病院で別れ際にソワレに贈った歌、『夢を信じて』。
「マージン、ミュージックスタート!」
「ふんっ…ぎぎぎっ…これ意外ときつっ…」
テルルの合図を受け、マージンは巨大な手回しオルゴールのハンドルをしっかりと両手で握り締め、ゆっくりと動かしていく。
オルゴール曲にアレンジされた優しい曲調のスローバラードが流れ始めた。
短いイントロの間、テルルはそっと瞳を閉じて思いの丈を研ぎ澄ましていく。
「あなたを、あなた達を、こんな酷い終わり方になんて、させはしない」
やがてテルルは静かに力強く奏で始めた。
続く