セイロンが去り、すっかり昼を跨いだアズラン。
「で、あとどれ位かかるのかしら?」
テルルは高圧的に問い掛ける。
何処から用意したのやら、アズランの木工所にビーチパラソルとリクライニングチェアを持ち込み、優雅に寝そべりながら、マユミの隣人、クマヤンの経営する酒場からの差し入れ(支払いはロマン持ち)のトロピカルドリンクのストローを口に運ぶ。
「え~とその、二週間、くらい、かと」
『は?』
声量お化けの一言は、ほんの短い言葉でも五臓六腑をビリビリ振動させ、ロマンを縮みあがらせる。
「出来る限りスピーディーかつマーベラスに仕上げますので納期は何卒ご勘弁ください!」
「まあ、いいけどね私は」
実際、長引くと困るのはロマンのほうだったりする。
修繕費用は、ロマン、マージン、フツキのポケットマネーから。
OZ並びにセイロン側に負担させる事は許さない。
そしてそこには、修復が完了するまでテルルが仕事を休養する事に対する補填も追加される。
それがスワンちゃん復元にあたってのテルルが出した条件だった。
クマヤンの酒場の窓から、納期についてシビアな交渉を続けるロマンの後方で、泣きべそをかきながらプロ顔負けの勢いで木材を切り出し、ヤスリをかけるマージンとフツキの姿が見える。
賑やかでバカバカしい、素敵な光景を頬杖をつきながら眺めるマユミに、皿を拭きながらクマヤンは声をかけた。
「なあ、マユミ、一つ提案があるんだが」
客にすら口数少なく、すっかり寡黙なイメージが定着したオーガの酒場マスター、クマヤンが、実はマユミに対してのみ饒舌なのは、もちろん誰も知らない。
「なぁに?」
「グレンの雪原地区に、いい土地があってな。そこなら、酒の仕入れコストも安く済む」
「ふむふむ」
「店を移そうと思うんだ。どうだろう?」
クマヤンがマユミの隣人、というのは、間違いでないながらも厳密には正解でもない。
何故なら、小柄な妖精であるマユミの自宅は、クマヤンの酒場のカウンター端に拵えられた、四角い家をモデルにした精巧なドールハウスなのだ。
それ故に、クマヤンが引っ越すとなれば、必然的にマユミも巻き込まれる事になる。
「そうねぇ…アズランの景色にも飽きてきたし。いいんじゃない?そうと決まれば、ついでだから、マージン達の支払いで、私の家を『OZ』に新調してもらいましょ!」
「ついでって、何のかんけ…おいまて!」
クマヤンが止める間もなく、交渉の為に勢いよく酒場を飛び出すマユミ。
最低でも5LDK、サウナにジャグジー付などとのたまいながら、マユミとクマヤンもアズランの喧騒に巻き込まれていくのだった。
そして。
そんな馬鹿騒ぎも遠く遠く振り返る頃になる、いつかの未来…。
続く