ライティアは雄叫びと構えの荒々し明滅を繰り返していた瞳に再び真紅の明かりをしっかりと灯し、機械仕掛けの殺意を纏ってマッドファクトリーが立ち上がる。
中ほどから刀身を失った大剣を放り投げ、ボクシングのような構えをとるが、一流の武闘家、ライティアからすれば、それはさながら子供の遊戯である。
繰り出される巨大な拳、その初撃をかわし、二発目は上段の蹴りで軌道をそらす。
腕を伸ばしきり、守りのがらんどうになったマッドファクトリーの正面に立ち、瞳を閉じて深く深呼吸。
カッと琥珀の瞳を見開くと同時、大きく踏み出した右足が、地を砕く。
「浸撃始原猛虎爪!!」
さに反して、流れる流水の如き所作で爪を振った。
タイガークローの様に、爪の斬撃を豪快に投げ放つのではなく、浸透勁の如く触れて伝える。
拳や蹴りによる浸透勁では点だった攻撃が、無数の線となり網となり、マッドファクトリーの堅い装甲を抜け、内部の電子機器を蹂躙していく。
その速度と破壊範囲は、マッドファクトリーの自己再生機構を遥かに凌駕した。
轟音と火柱を巻き起こし、砕け散るマッドファクトリー。
「それでいい。道場の爺どもに感化されて、始原猛虎爪にこだわる事なんてないのさ」
「新しい境地を与えてくれたことは感謝します。でもやっぱり私は、始原猛虎爪の再現をいつの日か、己の手で…」
ライティアは拳と平手を体の前で合わせ、武闘家の礼をもって、ミアキスに感謝と新たな決意を告げる。
「ふん…まぁ、目標があるのは立派な事だ。さて、厄介なモンスターをぶっ壊してくれた礼だ、今日かぎり、タイガーマンゴープリンの件は帳消しにしてあげようじゃないか」
「ホント!?」
「ああ。ついでに、つまみ食いした餃子の件もね」
「ギックゥウゥ!?」
「なんだ、ばれてないとでも思ったのかい?私の目を欺こうなんざ、百年早いんだよ。さぁさ、体を動かしたら腹が減ったね。餞別も兼ねて、今日のまかないは豪華にするよ!」
いたずらな笑みを浮かべるミアキスの向こうからは、キラーマシンを片付けたハクトとごましおが駆けてくるのが見える。
愛弟子たちに手を振り応えつつ、自身もミアキスと同じく空腹を覚え、一刻も早く虎酒家に戻りたくなったライティアであった。
その日の虎酒家は臨時休業。
「うわぁ、凄い!」
「胡麻だんごはオレのね!」
「じゃあ涎鳥は私が貰うわ」
「どれもたくさんあるんだ。おかわりだって作れる。独り占めせず仲良く食べな」
豪華にする、と言ったミアキスの言葉のとおり、虎酒家の2階、宴会用VIP席の大テーブルに所狭しと並べられた料理の数々に、一同は目を丸くした。
花椒の香りの漂う担担麺は子供にはやや辛口ながら、芳醇な胡麻の風味が舌への刺激を和らげ、まるで飲み物の様にするすると喉へとなだれ込む。
積み重なった蒸籠に鎮座するは、種々のキノコをふんだんに刻み入れた焼売に、ルシナ村近海で取れたプリップリのエビをチリソースにさっと絡めモチモチの皮で包んだエビ餃子、そしてしんせんたまごを惜しみなく使ったカスタードソースを包んで蒸し上げた拳大のたまごまん。
テーブルの中央には、エビと同じくルシナ村近海で取れた鬼面ガニのほぐし身と、近所の農家が卸してくれる朝どれのレタスを使った蟹レタスチャーハンが堂々と鎮座する。
それらを取り囲むは、先ほど争いの火種にもなった涎鳥や胡麻だんごなどのあまりにも潤沢な副菜の数々。
まさにテーブルへ飛び掛かる様に食事にありつく3人を、紹興酒を豪快に壷から浴びる様に飲みつつ、笑顔を浮かべて眺めるミアキスであった。
続く