「きみどりちゃん、充填よろしく」
ロマンは船室内に据えられた鍛冶道具を巧みに操り、巨大な矢じりとも短い槍ともとれる独特な金属柱を拵える。
「はいは~い」
受け取った金属柱の中は空洞になっており、きみどりの戦術花火の一つ、中でも推進力に優れたねずみ花火をすっぽり寸分違わず収納出来るようになっていた。
「本数どうだ?こんなもんでいいか?マージン」
引き続き響く小気味良い金属音とともに、瞬く間に5本の特製狩猟具が仕上がった。
「ああ、バッチリだ」
きみどりのねずみ花火だけでなく、先端にはマージン特製の音響爆雷も仕込まれた狩猟具はかなり重く、一つ一つ丁寧に甲板に並べ置くたびに、ゴトンゴトンと音を響かせる。
よく見てみると、狩猟具には順番に1から5までの番号が刻印されていた。
順番通り1番の狩猟具を持ち上げ、クマヤンへ手渡すマージン。
「こいつを見てくれ」
そして甲板中央に据えられたソナー画面、そこに浮かぶ丸い影を指差す。
「もともと30メートル級を下回る魚影には反応しない様にセットしてある。この海域にはクジラも居ないはずだから、この反応、ターゲットで間違いない。座標を入力する」
マージンがタッチパネルになっているソナー画面上の影をタッチすると、それに連動して舳先のポールが展開、目指すは海中、巨影の方向へ折れ曲がる。
「さあクマヤン、思いっきりブチかましてくれ」
「よし!」
ポールの根元、さながら流しそうめんの送り手の如く狩猟具をセットするクマヤンの右拳は、ハンマーの打面の様な丸いプレートを取り付けたガントレットに覆われていた。
「第一射、行きます!!」
クマヤンがさながら戦士職の必殺技、会心必中のモーションで、思い切り狩猟具の尾を殴り、その衝撃を初速へ変えて、一番槍は魚雷の如く大海原へと打ち込まれた。
「続けて2番、3番!」
ガイン、ガインと小気味よく、クマヤンが狩猟具を撃ち出す。
マージンは指示を出しつつもソナー画面に集中し、新たに映し出された狩猟具の影を慎重に確認する。
酒場のマスターとはいえ、オーガの恵まれた体格、クマヤンの強烈なパンチで撃ち出された狩猟具は瞬く間にターゲットへ近付いていく。
「今だ!ねずみ花火点火!」
「あいさ~」
マージンの合図にきみどりがパチンと指を鳴らすと、目標目前の狩猟具内のねずみ花火が点火され、ソナー画面上で瞬間移動の如く加速した。
「よし!3番命中!!いっくぜぇ、ポチッとな」
1番、2番は目標を通り過ぎたが、3番の狩猟具の影だけが、加速せず巨影と重なった。
その3番に内包された音響爆雷を作動させたマージン。
「…どうだ?」
海は変わらず、静かに揺れている。
「まあ焦るな、様子を見よう…」
獲物に突き刺し、その体内で直接音響爆雷を作動させて対象を気絶に追い込み、浮き上がって来た所を回収する。
今の所は段取り良く進んでいる様に思えるが、果たして…
「はい、そこの不審船、止まりなさ~い!」
ドルダイバーに仁王立ちしたアカックブレイブの、メガホン越しの声が響き渡ったのは、この瞬間だった。 続く