「一体何を!?」
しかしアカックブレイブからの答えは無い。
無言の殺意のみが絶え間なく押し寄せる。
「絶対俺達の命にも関わる!マージンは正直どうでもいいが、全力で逃げるぞっ!!」
「どうでもいいとか酷くない?皆と同じ、たった一つの大事な命だよ!?」
何を割られてしまうのか知らないが、割られるマージンと同じ船に乗っているのだ。
当然ロマン達もただで済むわけがない。
「『キングオブシー・アルティメットクラーケンハンター・ポセイドンギャラクシー号』、全速前進!!」この状況でも船名をかまないのは、もはや本当に職人芸の域である。
ロマンは舵の横に据えられたスロットルレバーを乱暴に押し倒し、アイドリング状態だったエンジンをフル稼働させる。
突然巻き起こる過大な推進力に一瞬ウイリーの如くバランスを崩しつつも、脱兎の如く逃げ出す『キングオブシー・アルティメットクラーケンハンター・ポセイドンギャラクシー号』。
その速度を目の当たりにし、何を思ったか、アカックブレイブはドルダイバーを足場にジャンプした。
「部分変形合体…ドルセリオンアーム」
アカックブレイブの口から淡々と発せられる音声指令に反応し、前後に分離したドルダイバーが磁石が引き寄せられるが如くアカックブレイブの左右の腕に接続され、先端から金属の掌がまろび出る。
その光景を見たマージンは、歓喜の声をあげた。
「やった!何だか知らんが墓穴を掘ったぞ!!」
アカックブレイブはドルダイバーを部分変形したドルセリオンアームを装着している。
という事は即ち、足場かつ移動手段であるドルダイバーを失った状況であるわけで、当然の帰結としてそれ以上はマージン達を追跡できないはずである。
マージンにならび喜ぶ一同の目の前で、信じられない光景が巻き起こる。
赤ゴリラ、もといアカックブレイブは着水する寸前、ドラミングの如く腰を大きく回して短いストロークでドルセリオンアームを振るい、海面にパンチを繰り出した。
ドルダイバーを浮遊させる反重力のフィールドを拳の先に集中させた状態での一撃は、海面をまるで大地のように捉え、結果、その反動でアカックブレイブの身体は大きく宙へ跳ね上がる。
「海って殴れるんだ…」
呆然とする一同を尻目に、右、左と拳を振るうたび、確実に距離を詰めてくるアカックブレイブ。
恐ろしい事にその追従速度は『キングオブシー・アルティメットクラーケンハンター・ポセイドンギャラクシー号』の全速力を上回っていた。
あっという間に距離を詰めたアカックブレイブの纏う鋼鉄の掌がガッシリと船尾を掴み、あまりの握力に『キングオブシー・アルティメットクラーケンハンター・ポセイドンギャラクシー号』の装甲が曲がる。
そのまま怒りのオーラで陽炎のように空間を歪めつつ、鬼が船上へと這い上がった。
「「「「下手人はあちらになります」」」」
左右二人ずつ、モーセが海を割ったが如く綺麗に別れて道を広げたロマン、きみどり、マユミ、クマヤンの先で、完全にへっぴり腰で後退るマージン。
「ホント、地獄に堕ちろお前らッ!」
欠片も庇うつもりの無い仲間たちに涙の別れを告げ、マージンは少しでもアカックブレイブから遠ざかろうと舳先を登る。
「オレは絶対に生きて帰るんだっ!って、あ~れぇ~~~…」
もはや先に道はなく、大海原へと飛び込むマージン。しかし突如として海面を突き破り飛び出した何かがマージンを絡め取り、そのまま振り回された結果、マージンの悲鳴にドップラー効果が付与されるのであった。
「た~~~すけて~ぇ~」
続く