牢獄に戻されたマージンは、わずかどんぶり4分の1とはいえ久々の食事にありつき、膨れたお腹をポンポンと叩きながら硬い板張りの寝台に寝転がる。
「しっかしなぁ…一体何の目的があるって言うんだ?」
隠し持っていた爪楊枝を口先で弄びながら、マージンは思案に耽る。
勿論ながら、今回の爆発騒ぎはマージンの意図する所ではない。
タイミングを考えて、盗み出した者と、アズランで爆発するよう仕組んだ者は同一と考えるのが自然だ。
マージンに捜査の手がすぐに届くよう写真を残したのも同じ人物かもしれない。
今の状況が犯人の想定通りだとすると、マージンを工房から遠ざけた事から考えるに、やはり金庫の中身を狙っているのだろうか。
「…中身を知っている?」
ただの金銭目的であれば、他をあたるはずだ。
中身も分からず一度失敗した所にこだわる理由がない。
「確かに不思議な代物ではあるけどなぁ…」
金庫の中身はいつぞやに一騒動を巻き起こした、フライナさんがオークションで入手したという怪しいスケッチブックのみである。
「オレを遠ざけて、また忍び込むつもりか?」
もとより念の為、しばらくハクトにはマイタウンに近付かないよう言い含めてある。
ティードにフライナも、夜はグレン住宅村の本宅で過ごす手筈だ。
家族の安全は心配ない。
そして何より、あの金庫は絶対に開かないし取り外せない。
そちらの線を考えるのはここまでとして、大きな問題がもう一つ。
一体『何故』爆弾は作動したのか、という事だが…。
「………」
マージンの爆弾は、他人が使用する事を意図して作らない限り、マージンの起爆装置、もしくは、定められた複雑な手順を踏まねば、絶対に爆発させる事はできない。
にも関わらず、爆弾は爆発した。
起爆装置は巧妙に肌身離さず隠し持ち、今もマージンの手の中である。
「…また、過去の亡霊がおいでなすったか?」
不可能を排除した先に残った選択肢。
それに思い至った時、狭い鉄格子の隙間から、小さな何かが牢屋の中に飛び込んでくる。
「伝書用に調教したデスパロットによるメッセージ…やっぱりか…」
マージンは、睨みつけた鉄格子の外、飛び去る紫のシルエットを視界に捉えた。
「この伝達法、どうにも好きになれんかったんだよなぁ…うえっ」
咥えていた爪楊枝を手に持ちかえ、先刻床に撃ち込まれた何かを突き解していく。
鳥は消化できない種や異物などを塊にして吐き出す習性がある。
ペリットと呼ばれるそれに、暗号を刻み込んだ金属管を仕込ませて、遠くの仲間へ伝言を送る。
それは、マージンとティードがかつて所属した傭兵団、サンドストームで用いられていた手法である。
「さて…何々…」
小指の爪程の小さな金属管には、独特なミゾが刻まれている。
それをゆっくりと人差し指と親指の間で転がすにつれ、マージンの顔から表情が消えた。
「お〜い、来てやったぞマージン」
牢屋の扉に背を向けているマージンに、ウヅキとランニャーに連れられてやってきた相棒の声がかかったのは、まさにこの瞬間であった。
続く