「爆弾に関しては、マージンの作で間違いないと思います。ですが、マージンが起爆したとすれば…」
「爆発する様を自らの目で間近で確認しないなんて事は、絶対にあり得ない」
「そうです」
それはもはや、マージンという生き物の習性を良く知る二人にとって、天地がひっくり返ったとしても絶対に無いと断言できる事だった。
「恐らくは俺が見たのは偽者でしょう」
「ふむ。こんな立場で言うのもなんだが、放っておいてもブタ箱に突っ込んでいくような男を、わざわざ陥れた犯人の目的はなんだろうね?」
「それに関しては、まだわかりません。ですが恐らくは、マージンから受け取った物が手掛かりになるはず…」
フツキはゴソゴソと、ポケットの中身を探る。
「これを見ていただきたい。貴方なら、何かご存知かと」
やがてフツキはポケットから小さな金属管を取り出した。
通常、受刑者への物品の授受は厳しく統制されているが、事前に看守に確認した所、フィズルに関しては一切の検閲無しだった。
それだけに模範的な行動、そして発明品による貢献を果たしているのだろう。
「…これを一体何処で?」
フツキから金属管を受け取ると、溶接の際の保護の為装着していたゴーグルを跳ね上げ、小さな金属管をあらゆる角度から睨めつける。
「落葉の草原で、マージンから強烈なパンチに添えて受け取りました。加えて、貴方に会いに行くようにと言伝が」
「ん~…?少し待っていたまえ」
そう告げるやいなや、プールに飛び込むが如く、牢屋の隅、一見するとスクラップが無造作に積み上げられているようにしか見えない機械の山に頭から飛び込み、何かを探し始める。
「これでもない…あれでもない…確かこの辺に…いや、あっちか?んんん?」
呟くたびにフツキをもってしても用途のわからない装置を撒き散らしながら、やがてフィズルは拳大の機械を発掘した。
「ふぅ。知ってるも何も、これを作ったのは私だからな」
「えっ?」
「厳密にはこの伝言システムを、だが。これは極小の、そうだな、オルゴールのシリンダーとでも考えてくれれば良い」
フツキに説明しながら、先程発掘した装置に金属管をセットするフィズル。
「慣れれば再生機無しでも読み取れるんだがね、昔から機械イジリが過ぎて、私は指先の感覚が少々鈍いのだ」
カチリとスイッチを押し込むと、僅かなモーターの回転音と共に、無機質な機械音声が再生される。
『…カゾク…アズカッタ…コウカン…キンコカラモチダセ…ヒトリデ…』
「…なるほど、こいつは穏やかじゃあない」
カチリと微かに響いた金属音を最後に、音声の再生が止まる。
「…あの馬鹿」
思わず舌打ちが漏れた。
あくまで、マージンは犯人の要求通り、一人で動こうとしている。
フツキは保険だ。
マージンは自分が失敗したときを考え、事情を伝えておく為と、行動のリードタイムを設ける為に、直接話さず、ヴェリナードへ向かわせたのだ。
完全にしてやられた。
あれでも超がつく一流の冒険者、マージンを相手に、この時間のロスは致命的だ。
うなだれるフツキに、フィズルは諭すように声をかける。
「今ひとつ事情ははっきりしないが、かい摘んで重要な事は、だ。まだ、状況は決していない。違うかね?そして、今のマージンを良く知る君と、過去のマージンを良く知る私。君と私が手を組めば、マージンに追い付き、出し抜く事すら可能だと思うが、どうだね?」
そうだ。
まだ、間に合う。
ヴェリナードの地の底から、今はまだ遠く掴めないマージンの背中を、フツキは確かに睨んだのだった。
続く