それから日々はめまぐるしく過ぎていった。
ジュエとキャトルの高額依頼書争奪戦は、今やこのさびれた町の風物詩となっている。
本人たちにはけして聞こえぬ様にしつつも、痴話喧嘩の行方は毎日一番の話のタネだった。
しかし今日はさしたる諍いもなく、悠々と依頼書をゲットしたキャトルは、前日の朝に閃いた名案が結実し、荒野で一人、ほくそ笑む。
ジュエと受注がかち合うのなら、自分が相手よりも早く酒場に行けば良いのだ。
何故そんな単純な事にずっと気が付かなかったのか。
「ふっふっふ、早起きは何とやらってな」
いつもの如く二日酔いで昼まで身動きがとれないなどという事態を避けるべく、キャトルは昨夜、酒を口にしなかった。
昨晩の分も含めてスキットルに満たしたウォッカをハイペースで摂取しつつ、夕焼けでなく朝焼けを背負いながら荒野を行く。
「…ん?」
しかしついつい調子に乗って、ハイペースで飲みすぎたのだろうか。
どうにも先ほどから、足元が揺れているような気がする。
嫌な予感に身構えるよりも先に、ジュエの笑い声が響き渡った。
「キャトル坊や、私を出し抜こうなんざ、千年くらい早いんだよ!フハハハッ!!」
「何ぃっ!?」
キャトルのもとへと一直線に急接近する砂煙の先頭には、おおくちばしに跨がったジュエの姿。
「頂きだっ!」
瞬く間に追い付いたジュエがキャトルの握る依頼書をひったくる。
「あっ!?待てやコラァ!!」
キャトルは砂煙に突入し、しゃかりきにジュエを追いかける。
結局今日も今日とて、泥沼の争いが幕を開けたのだった。
そうして、目的地の入り江の集落まで追いかけっこは続き、果たして辿り着いた水辺には、目当ての獲物はいなかった。
出現を待って張り込みを始めてから、既に二日が経つ。
「…おい」
「………」
「おいってば」
何度目かの呼びかけでようやく、面倒くさいなという辟易した表情を浮かべてキャトルの方を向いたジュエ。
「お前も飲んどけよ。保たねぇぞ」
「必要ない」
水の入った皮袋を差し出すが、ジュエは受け取らない。
「いやお前、ここ2日間何も口にしてねぇだろ。せめて水くらい…」
「必要ない」
「いやそんなわけないだろ」
「煩いな。何だ?話相手がいないと寂しいのか?」
「…っ!もう知らん!」
せっかく気を遣ってみればこの始末である。
キャトルは苛立ち交じりに無駄使いにならない範囲で水をもう一口煽った。
そこでふと、何だかんだ長い付き合いになるが、ジュエが何かを口にしている所を見た事が無い事に気付く。
いつも酒場の隅の特等席で、水のグラス一つすら置かれていない机に突っ伏している。
さすがに何だかそれはおかしいのではないか。
だがしかし、たかだかいがみあっている女の食生活にまで口出しするのも野暮の極みという物だろう。
自分でも説明できないモヤモヤに頭を悩ませているうちに、待ちに待った獲物が姿を現すのだった。
続く