距離を詰めてきたじごくのきしが繰り出すさみだれ斬りを冷静にかわす。
腕が6本あろうと、敵は一体だ。
3人の凄腕剣士に取り囲まれるよりは苦労はない。
そして何より。
「おいおい、随分太刀筋が雑だな」
ドロウモンスターは、頭で思い浮かべたとおりに動くと、ジュエから聞かされたことがある。
この魔物がやはりドロウモンスターだと仮定して、それを操っている主は、6本腕での戦い方なんぞに精通していないのだろう。
右手に構えたジャンビーヤでひたすら続く猛攻を捌きながら、左手にはソードブレイカーを握り締めた。
じごくのきしから見れば死角より取り出したソードブレイカーの溝で、剣の一本の根元をひっかけ、その隙に右手の得物をジャンビーヤから肉厚なグラディウスに持ち替えて、首を刎ねる様にじごくのきしの剣を圧し折った。
折れて舞った剣先は、地に落ちると同時に蕩けて、油のような濁った液体溜まりと化す。
「ほらほら、武器が無くなっちまうぞ」
じごくのきしを押し返しながら、反撃に繰り出される剣を一本、また一本と、破壊していく。
「う~ん、飽きた。随分、他愛無かったな」
キャトルは曲芸の如く、最後はククリナイフに持ち替えると、呆気なくじごくのきしの首を切り落とした。
頭を失い、入り江の砂浜にガクリと膝をつくじごくのきし。
その身体が、先ほどの折った剣の様に溶け始める様を見て、ナイフを収める。
しかし、切り離された頭部でもって、キャトルが油断した隙を、今際の際にあったじごくのきしは見逃さなかった。
ドロドロと溶け始め、崩れ落ちた姿勢ながら、最後に残されていた一本の剣を振りぬく。
キャトルは袈裟切りに自分の心臓を撫でるであろう太刀筋を、どこか他人事のように眺めていた。
(ああ、ここで終わりか…)
「気を抜くなって言っただろ馬鹿ッ!」
しかし突然、横合いからジュエの叫びと衝撃が走り、すっ転んだキャトルの眼前で、じごくのきしの剣はジュエの体をなぞり、鮮やかな赤が宙に舞ったのだった。
続く