「…」
虚をついたつもりはない。
それでもあっさりと、キャトルはジュエの唇を奪うことができた。
「!!!???」
まったく予期せぬ展開に、ジュエの瞳が白黒する。
「なっ、なっ、何するだぁぁぁ!!!?」
やがて冷静には程遠いながらも、回り始めた脳みそで噛み噛みの罵声と共にジュエはキャトルにビンタを喰らわせた。
「おお、いてぇ」
キャトルの首はパペットマンの様に派手にひん曲がった。
この狭い穴倉の中では、受け身をとろうにもどうしようもなかった。
既に盛大なダメージを受けているが、もちろんジュエの怒りはそれだけで収まらない。
「うおお、止せ、俺が悪かった!!だから、ばくだんいわは止せ!」
フシャーフシャーと獣のような荒々しい威嚇音を迸らせながら、スケッチブックからまだまだストックのあるばくだんいわのページを引きちぎろうとしたジュエを、キャトルは曲がった首のまま慌てて制止する。
「…辞世の句くらいは聞いてやる」
そう言いながらも、ピリピリとスケッチブックのページには切れ目が走り続け、心なしか描かれているばくだんいわが艶やかになっていく気がする。
「双子の姉か、なんて言って、悪かった。全然違うな」
首の骨が悲鳴を上げ続けているが、その甲斐あって、答えは出た。
「あん!?」
「お前の唇は、暖かい。出鱈目な身体なもんか。もちろん、ドロウモンスターなんかでもねぇ。お前は、俺が惚れた、ただの普通の女だ」
スケッチブックが、ぽとりと落ちる。
惚れた女の為だったら、神だろうが悪魔だろうが、果てはたとえドラゴンだろうが。
喧嘩の一つや二つ、売れねぇ男が、何処にいる?
何千年と続いたジュエの孤独が溶ける様を、丸い月だけが見ていた。
続く