「「マージン…!!??」」
確信にも似た予感のあったマスターと違い、二人は数奇な巡り合せに目玉をひん剥く。
「おっとフッキー、怪我人なんで拘束とか手荒な真似はちょい待ち!」
マージンは包帯頭を指差しアピールして、今にもアンカーボルトを射出しそうな相棒を必死に制止する。
「一か八かだったが、もう外野はいないんだ、逃げる必要もねぇ。だろ?オッサン」
「俺はオッサンじゃねぇ!はぁ…やっぱりな。レンドアの連中はそもそもお前に張り付いてたってことか」ヴェリナードからレンドアまで、フィズルとフツキに対して尾行の影が無かったのは間違いない。
唐突にレンドアで連中に絡まれたのはつまり、そういうわけだ。
「そうそう。まあ、アカックブレイブが出張ってくるのは流石に想定外、でもま、ちょっと騒乱を招けば、ついでにうまく奴らをまけるかと思ってね」
「失敗の許されないクエストでよくやる…」
相棒の咄嗟の機転と思い切りの良さはフツキもよく知るところであるが、事情が事情だけに呆れざるを得ない。
「俺がしくじっても、オッサンとフツキが何とかしてくれただろ?」
自身の家族すら託せる。
それは最大級の信頼の証。
「だからこそこうして、合流出来たわけだしな。それに、こっから先も、しくじるつもりは毛頭ないさ。…ところで、何か大事なものなんだろうが、それは何?」
「お前達に必要なもの…さしずめ、勇者の剣って所か」
マスターはテーブルに歩み寄り、自身が放り投げた包みを仰々しく解く。
「「錆とるがな!!!」」
しかし姿を現したのは荘厳でもなく霊験あらたかそうでもなく、すっかり全体が錆に包まれ赤茶けた一振りのエンシェントククリだった。
「やっぱりな…」
いつの間にやら拘束を抜け出していたフィズルは、呆れと驚きの声をあげたマージンとフツキとは対照的に何やら頷くと、淡々とナイフを手に取り錆の一欠を慎重にこそぎ取ると、ポシェットから取り出した試験管に落とす。
「オッサン!流石にそれを研ぎ直してる余裕は無いぜ?」
「だからオッサン言うなや!」
「ぬわぁ~~~っ!!?」
簀巻きの包帯の上から、グレートフィズルガーZがマージンに文字通りアイアンクローを仕掛ける。
「割れる!ティードさん並み!!これは本当に割れるって!!」
マージンの悲鳴を無視してフィズルが軽く試験管を振ると、試験管内に満たされていた透明な液体が朱に染まる。
その反応を見てフィズルは満足そうに微笑んだ。
「研ぎ直しなんて必要ない。この錆が大事なんだ。さて、目的のものは手に入った。行くとしようか」
再び包んだエンシェントククリを懐に抱え立ち上がる。
「まてフィズル。そのナイフはそこのミイラ男に持たせとけ」
「ん?ああまぁ、どうせ私はナイフ使えんしな」
突然の父の提案を怪訝に思いながらも、素直にグレートフィズルガーZを引っ込め、頭蓋の形が歪んでいないか訝しむマージンに投げて寄越す。
「あれ?これって…」
錆にまみれた刀身ばかりに目が向いており、手にとって初めてマージンは気付く。
「やっぱり、ボスのナイフ?いや、でも…」
サンドストームのボス、キャトルは常に、ククリナイフを右手で振るっていた。
しかしこれは左手で握る為にグリップに改良が施されている。
「んん?ま、いいか。マスター、世話んなりました。屋根の修理はおって必ず」
「ああ、せいぜい期待せずに待ってるよ」
マージンがナイフを腰に下げるのを待って、三人は酒場をあとにするのだった。
続く