「せっかく巡り会えたというのに!どうしてなんだ!?」
「俺…じゃなかった…私と兄上はもう敵同士なのだ?武器をとれ」
涙すら流しそうなテンションのハクギンブレイブに対して、カタカナが見えそうなほどの、ガチガチな棒読みとおかしなイントネーションで応じるフタバ。
「できるものか!」
「ならばここで散るがいい、ハクギンブレイブ」
今にも襲いかかろうとフタバが構えをとった所で、ドルブレイブショーのロゴが入ったTシャツの男が二人の間に割って入る。
「はい、カット~!」
「どうでしょうねぇ…」
「…う~ん、やっぱりまだ早いか」
並べて置いた折り畳み式のパイプ椅子に腰掛けて、演出兼脚本担当の団員と座長は揃って首を傾げる。
「アクションはバッチリなんだよな。声だけあてるか、それかいっそ無言で…」
あの手この手と座長は思案する。
「フタバちゃんはこれからどんどん伸びますよ。焦って今、舞台に立たせなくても良いんじゃないです?」「そうだなぁ。だが、惜しいな…。特別な舞台、上がれれば弾みになるかと思ったが」
「逆にトラウマになったら、演劇界の損失ですよ」
「うむ、それは違いない」
先程カットをかけた団員による演技指導に、直立不動で素直に聴き入るフタバを二人は微笑ましく見守る。
ハクギンブレイブが気絶したフタバとケラウノスを連れて帰ったあの日。
「品行方正なハクギンブレイブが不良娘を連れて朝帰り!?」
などと全く朝でもないのに大騒ぎになった一座であったが、ヘルメットを脱げば妹との発言に違わぬハクギンブレイブと瓜二つの顔が出るわけで、なし崩し的にではあるがフタバは劇団の一員として温かく迎え入れられていた。
フタバもまた、持ち合わせの素直さから打ち解けるのが早く、折りしも大地の箱舟における特別公演を控えるなか、せっかくであればとフタバを交えた台本を用意してみた次第であった。
そこへ顔を出す赤髪の女性。
「うん、精が出ているようでなによりだ」
「あっ!!みたらしの姐御!」
「こらフタバ、セ~クスィ~さんだよ。そろそろいい加減ちゃんと…」
「はっはっ、構わないさ。ほらフタバ、今日もお土産があるぞ」
フタバをたしなめるハクギンブレイブをセ~クスィ~はやんわりとなだめ、特大の包みをフタバに手渡す。
薄い黄緑色の紙に包まれているのは、勿論フタバの大好きなみたらしである。
もとを辿れば、セ~クスィ~の来訪はハクギンブレイブの身体に起きた変化を座長が連絡したからなのだが、思いもよらない再会をフタバはとても喜んだ。
それから早くも2週間。
こうして3日と置かず、大量のみたらしとともにセ~クスィ~は足繁く顔を見せていた。
「はい、はい、はい、はい…」
「フタバちゃんはほんとにみたらしが好きだねぇ」
セ~クスィ~から受け取った大量のみたらしを一つ一つ、一座のみんなに手渡していくフタバ。
やがて全員に配り終えると、皆から少し離れた仮設ステージの隅に座って自身もみたらしに齧り付く。
セ~クスィ~の波状攻撃の如き差し入れにより、随分と食べ方も上達した。
今では根元の方の団子も上手に食べられる。
そして何よりも。
こうして一座のみんなが、自分の配ったみたらしを、笑顔を浮かべて食べているのを見るのが好きだった。
「ケラウノス。兄上が03で、俺が28。少なくともあと26人の兄上や姉上がいるわけだ。いつか皆で、みたらしを食べられたらいいなぁ」
「…その作戦目的は変更することを推奨する」
「どうしてだ?」
「その理由は秘匿データNo.2458732にあたり、28号に対する開示制限に抵触する」
「………ようは言いたくないんだな」
少しムッとするフタバ。
「そうではない。開示制限により伝達できない。加えて、あのオーガ種の個体とは、距離を置くことを進言する」
「納得のいく理由を説明しろケラウノス」
「その理由は秘匿データNo.2458732にあたり、28号に対する開示制限に抵触する」
「またそれか…。あと、何度言えばわかる?俺はフタバだ。いい加減、登録呼称を変更しておけ」
「了解した。フタバ」
またどうせ、数日もすれば忘れて再び28号と呼ぶようになることだろうが、ガミガミと言うつもりはない。
ケラウノスもまた、大事な兄弟なのだから。
仮設とはいえ、フタバが腰掛けているステージはそれなりに高い。
ぷらぷらと足を遊ばせながら、引き続き一座の皆を見つめるフタバであった。
続く