『このまま、大地の箱舟の外から警戒を続けるわ』
「助かる」
『てっきり、マッドファクトリーの襲撃に合わせて仕掛けてくると思ったのだけど。…いえ…待って…今なにか』
スカイドルセリオンのレーダーに、一瞬光点が映った。
「どうした?」
『高速で接近、いえ、瞬間移動!?説明がつかない…』
レーダー上、遥か遠くに視えた光点は連続した軌道ではなく、消えては現れ、消えては現れ、その度に確実に距離を詰めてくる。
『真に有用なものほど、このように洗練、研ぎ澄まされていくものだ。斯様な巨体、無粋の極みだな』
遂にはスカイドルセリオンを指し示す中心円と重なる光点。
ゴルドブレイブことケルビンは不遜にもスカイドルセリオンの頭頂に佇み、割り込み通信でおきょうの発明を罵倒するとともに、雑作もなく遥かにサイズの異なる巨体を地へ蹴り落とす。
『きゃああああっ…!!!』
「おきょう!?」
『…こちらは大丈夫。ただジャイロをやられて、もう援護は難しいかも。ゴルドブレイブは最後尾の客車に乗り移ったわ』
「最後尾だと!?まずい!そこにはフタバが!」
マッドファクトリーが撃破されるのを窓から確認し、そのまま最後尾車両に座り込んでいた28号。
ごましおとハクトが誘導したのだろう、車両内には28号唯一人しかいない。
そこへ車両の壁を打ち貫き、ケラウノスを携えたゴルドブレイブが姿を現す。
「無事だったかケラウノス!…ケラウノス?」
再会を喜び声をかけるが、外部発声でも秘匿通信でもケラウノスの返答はない。
「ああ、無駄だよ。メモリのリセットがかなわなかったのでね。私の手に握られているうちは、全ての演算が停止するように再設定した。今はただの木偶だ」
「貴様ッ!」
友を愚弄され、28号に怒りが巻き起こる。
「稚拙なものだな。ほら、どのみちついでもある、返してあげよう」
何気は無しに語るとともに、ゴルドブレイブのド派手な身体が28号の視界から掻き消えた。
次の瞬間には、ゴルドブレイブは眼前に迫り、ケラウノスで28号の胸を深く貫くと、そのままの勢いで壁に貼り付けにする。
その衝撃に大地の箱舟全体が揺れた。
「ゴルドスパイン。それはグランドラゴーンという伝説の魔物の首の骨を加工したもの。かの存在は勇者が一度剣を振る間に、四度牙を突き立てたという。融合というプロセスを必要とする欠陥品のお前と違い、私ならケラウノスを握るだけで2つ分のゴルドスパインの力を引き出せる」
ケラウノスから手を離し、後ろ手に組むと、ゴルドブレイブは高速移動の仕組みについて講説を垂れる。
「くそっ…身体…が…」
ケラウノスを掴み、引き抜こうとした28号だが、電源が切れたかのように身体が動かない。
その身体にはケラウノスを通して停止信号が流し込まれていた。
「そしてゴルドスパインはこの世に4つしかない貴重なものでね。ガラクタの中に入れておくにはあまりにも勿体無いんだ。返してもらおう」
そして水平に突き立ったケラウノスの石突を握り、コマンド指示を流し込むゴルドブレイブ。
「…スリープから復旧………。状況及び実行中のタスクを確認…………!?」
無意識下で強制命令を実行しつつ、ゴルドブレイブの手が離れたことによりようやく意識を取り戻したケラウノスは状況を把握し愕然とする。
「やぁ、久しぶりだな、ケラウノス」
絞り出すのもやっとのことだが、ショックを受けるケラウノスとは対照的に、28号は再会を喜んだ。
セ~クスィ~が駆けつけたのもまさにこの瞬間だった。
「フタバっ!!おのれケルビン!!彼女から離れろ!」
「言われなくとも離れるとも。私も何かと忙しくてね。しかし…つくづく君はしぶといものだな。とはいえ、知っているぞ。もはや魔装展開もできるまい。その間に私は悠々と動力炉のゴルドスパインを頂くとしよう」
すれ違いざま、ぽんと馴れ馴れしく肩を叩き、セ~クスィ~と入れ違いに姿を消すケルビン。
「フタバ。直ちに当機の分離を実行されたし。当機は現在遺憾ながらフタバに危害を加えている」
「…はは、まったく。28号だと…言っているだろうが…」
セ~クスィ~はほんの数日前にも28号の身体をケラウノスが貫く様を見た。
しかし今回はその時と全く様相が違う。
ケラウノスは相変わらず淡々とした口調ながら、それでいてひどく狼狽しているのが伝わってくるのだった。
続く