セ~クスィ~とケラウノス達が言い争う間にも、状況は悪い方向へばかり転がっていく。
「前門の虎、後門の狼か…。ごま、ちょっくらここは任せたぞ」
「え!?何処行くの?○門が何て?………トイレ?」「まあそんな感じの野暮用だ」
いつもの如くヒラヒラと手を振って、一人さらに後部車両へ歩み行くミサーク。
「あっ!!」
ミサークの手にいつの間にかごましおが身に着けていたはずの変身ベルト、レタシックドライバーが握られている事に気付いたときには、車掌から盗み取った鍵を使ってミサークは誰も後を追えぬよう扉に鍵をかけていた。
「悪いなごま、チームのお兄さんとしちゃあ、まあ譲れんところとかあったりするのさ」
オルフェアでのハクギンブレイブ誘拐未遂騒動に、虎酒家での修行の日々。
ごましおが自分の目の届かないところで、様々な冒険を果たしたことは知っている。
ごましおもまた一端の冒険者であると認めつつ、それでもやはり目の前くらいでは、お節介だろうがありがた迷惑であろうが、自分の手で護りたいのだ。
目の前に対峙するは金色の怪人。
おきょうに吹き飛ばされながら、早くも追いついてきたゴルドブレイブだ。
怪人が高く掲げた指を鳴らすと、数体のバブルスライムのような灰色の粘生体が床から滲み出るように現れ、ボコボコと泡立ちながら金色の怪人に酷似しながらもひどく簡略化したデザインをかたちどる。
「いいねいいね、怪人にその手下共。休日の朝っぽくなってきた!!」
パキポキと拳を鳴らし、いかにも徒手空拳で攻めると見せかけて…。
「そら、ベタン!!」
腰の後ろに隠し持っていた杖をふるい、重力呪文で雑兵たちを這いつくばらせる。
「俺ド凡人だから、正攻法じゃ勝てねぇンすわ。だからコイツも、使わせてもらうぜ!」
ミサークのベタンは文字通り雑魚達をぺちゃんこにしたが、そんな強力な重力場に晒されながらも金色の怪人はよろめき一つ起こさない。
となれば、次の一手を打つまでだ。
「このベルトは俺の作品。故に俺が一番、レタシックブレイブを上手く使えるんだ!」
スマートにドライバーを着装しすかさず起動する。
しかしいきなり、製作者を思わぬ落とし穴が襲った。
「あれ!?あっ…ちょっとスーツがキツい…あっ…」眩い閃光の中からミサークの悲鳴と、ビッタアァァァという布地が張り付くぬめりのような音が鳴り響く。
「うわぁ…嫌ァ…」
光が過ぎ去り、現れたミサークのその仕上がりに、隣の車両から覗きこんでいたごましおは思わず目を覆う。
「しまった…アジャスト機能付けてないんだった…」ミサークは着圧の驚きの強さに四つん這いで後悔するも、時既に遅し。
プクリポ標準に合わせたスーツにウェディの身体が収まるはずもなく、アバンギャルドに太もも、二の腕を曝け出し、さらにはおヘソまでチャーミングに飛び出した、無惨な仕上がり。
レタシックブレイブフューチャリングミサークあらためピッチピチックブレイブの出来上がりである。
せめての情けのバイザーも何故か閉まらず、哀愁に満ちた表情が晒されている。
「…ほほう。古代ガテリアの系譜と見た。その技術、独学かね?」
こんな姿でなければ、そして何よりも相手が敵でなければ、僅かに含まれる感嘆の響きに泣いて喜んだところである。
だがここは、乗客の皆を、ごましおを護るための戦場なのだ。
「哀しいかな、これって戦いなのよね!」
兎にも角にも、武器である。
レタシックブレイブの主兵装、レタシックブーメランの起動スイッチは、背中の羽根に触れること。
モーモンのような比率となっている小さな翼に、もはや何かしらのヨガのポーズで何とか手を伸ばしタッチする。
『レタシック…ブゥゥゥメランッ!!!』
小さなドラゴンを模したブーメランが展開されると同時、いつぞやにごましおを困惑させたミサーク自身の雄叫びがベルトから響き渡る。
「………………自分で吹き込んだのかね?…何故?」「この様式美も分かんねぇようじゃ、あんた、ヒーロー物の履修が足りないぜ!アカブレイバーから読み直すんだな!…ちょいやっさ~!!!」
「ああ…っ!その掛け声は…!(負ける感じだ)」
履修し過ぎも悲劇を招く。
完全にやられ役っぽいセリフを吐き、繊維に引っ張られた結果のガニ股からブーメランを振りかぶったミサークは、ごましおの察知した嫌な予感の通り、ゴルドブレイブのデコピン一発に沈む。
「色々無駄が多いが独創的でひねりが効いている。いつか詳しく話を聞きたいものだ」
無下にお尻を踏み越えられるミサーク。
しかし僅かながら確実に、時間を稼ぐ役割を果たしたのだ。
スペアキーを探す手間も惜しい、どうせ壊されるに違いないのだからと、強引にセ~クスィ~に蹴り破られた扉が飛来し、ゴルドブレイブを吹き飛ばすのであった。
続く