セ~クスィ~の背を見送り、進むべき戦場へ向き直るハクギンブレイブ。
機関部より漂う熱気は既にハクギンブレイブとハクトを濃密に包み込みつつある。
「…ふぅ。えっと…ケラウノス、さん?」
「当機はSBシリーズを補佐する為にある。略称は不要である」
「え、あ、はい。では、行きましょう、ケラウノスさん!」
「その前に、ハクギンブレイブのバージョンアップを行う必要がある」
「ば、バ…え?」
出鼻を挫く聞き慣れない言葉に戸惑うハクギンブレイブ。
「本来のオペレーティングシステムを喪失しているゆえ認識出来ていないであろうが、現在ハクギンブレイブは意図的に仕組まれた機能制限下にある」
カミハルムイのドルブレイブショーの鑑賞時、また、フタバと共に劇団で過ごす中で、ケラウノスは出来る範囲でハクギンブレイブのシステムチェックも行っていた。
自爆を決行したとはいえ、自己復元システムは完璧に作動している。
しかしなお、現在のハクギンブレイブのステータスは、オリジナルであるたけやりへいにも劣っている。
そう仕組まれているのだ。
「ええと…」
「これより施されたウイルスプログラムを破壊、ハクギンブレイブに本来の戦闘能力を復旧する。………アカックブレイブが離席したのは実に僥倖である」
創造主は既に亡く、ケルビンが関わったとは思えない。
恐らくは自爆後、回収を行ったドルブレイブの手によるものであろうとケラウノスは想定していた。
「当機の接続端子、つまりは角部をハクギンブレイブのコアと直結する必要がある。単純に言えば、胸部へ刺して頂きたい」
「えっと………」
「痛みはない。安心されたし」
「あっ、いや、それも気にはなったんですけど…」
一番悩ましいのは、ケラウノスの言うとおり、この場にセ~クスィ~が居れば絶対に許可が降りなかったに違いないからだ。
「…怒られそうだなぁ」
嫌な予感は拭えないが、それは確かに成功率を上げることに繋がりもする。
「ひっ、ひっ、ふ~…ひっ、ひっ、ふ~…」
「………」
緊張をほぐすためと想定されるが、ケラウノスを自らに向けて構えると、何かを産み出しそうな呼吸を始めるハクギンブレイブ。
まるでフタバのような少しズレた行動に、ケラウノスはわずかに自身の温度が上昇したことを確認する。
この異常はフタバと過ごす中で、何度も検知した。
機能に悪影響はなく、ごくごく短時間で治まるうえ、原因がさっぱりわからない為に放置してきた。
だがこの熱は、何かとても大事なものなのではないか?
ケラウノスが思案を巡らすうち、いよいよ覚悟を決め、あらためてケラウノスの接続端子の狙いを定めるハクギンブレイブ。
しかしそこへ、まさかのハクトが水を差す。
「…待ってください!僕の…僕の耐爆スーツなら、父さんのギガボンバーにも耐えれる設計なんです、自惚れかもしれないけど魔装よりも熱に強いはずです!だから…!」
その言葉は、ハクギンブレイブとケラウノスに向けて紡がれる。
かつての友の似姿を危険に晒すことも勿論ながら、ハクトには、ようやく戦いを強いられる日々から解放されたハクギンの身体に再び戦う力を宿すことが、どうしても許容できなかった。
しかし、自身の開発したスーツの有用性を訴えながらも、さながら溶鉱炉の中に飛び込むような行いに対して、その声の震えから隠しきれない恐怖が伝わる。
それでも奮い立つのは、何故なのか。
「ハクギンは…ようやく勝ち取ったんだよ…もう君は、戦う必要なんて、無いんだ…」
目の前にいるのは、親友ではない。
彼は望まぬ戦いを強いられ、途方も無い地獄のような時の果てに、天へと旅立った。
ハクギンブレイブに施されているというリミッターはきっと、贈り物なのだ。
あらためて平穏な日々を送れるようにと、願いを込めた…。
たとえそれを享受するのがハクギン本人ではなく、空っぽになった器に芽生えた新たな心だとしても。
項垂れながらも、押し留めるようにハクギンブレイブの両肩に手を置く。
戸惑いからくる沈黙の果て、ハクギンブレイブはそっと口を開く。
「そうか…君が…もしかして、ハクトくん…?」
知らないはずの名前を呼ばれて、ハクトは驚きに顔を上げ、目を見開くのだった。
続く