配送トラブルによりイベント当日ぎりぎりに届いたベビタンタイツを、ミサークに協力してもらいつつ急いで身につけるごましお。
「お~っ、似合ってるねぇ!でも何か足りないような?そうだ!」
そこへふらりと現れたチームメイトの白髪赤眼のオーガ、ノードゥスはぱたぱたとキッチンへ駆けていくと、彼専用のステーキ用フォーク(ケガ防止のためしっかりと布製カバー付き)を手に戻ってきた。
「お~っ!ナイス!!ごま、持ってみろ持ってみろ!」
「うん!」
ミサークにも囃し立てられ、プクリポの小さな体にはひとまわりもふたまわりも大きいフォークを握ったごましおの姿は、まさに可愛さ200%増しのベビーサタン(当社比)。
「じゃ、オレ行ってくるね!」
余す所無く使い切るモットーのもと、中身は昨晩のカボチャプリンに転じたジャック・オー・ランタンを象ったオレンジのカゴを紐で肩から下げて、ごましおはハロウィンに沸く街へと繰り出すのであった。
そして、小一時間ののち。
出だしこそ躓いたが、暮れなずむ街の中、カゴから溢れんばかりにお菓子をせしめて、満足げなごましおの姿があった。
中でも一番の収穫は街外れの老婆から頂いた和紙の包みにくるまれたお菓子だ。
随分と角張った飴玉だな?と口へ運んだごましおの驚きたるや、過去に類を見ない。
外はシャリ、それでいて中はゼリーのようにぷるんと。
その名も知らぬまま、初めて味わう色とりどりの琥珀糖を一つ一つ大事に大事に口へ運ぶうち、ごましおは街中では珍しい桜モーモンの姿を見かけた。
歯を食いしばりその小さな羽を精一杯羽ばたかせて、足に掴んだ立派なリンドウの花を運んでいる。
時折ふらつく様を黙って見ていられず、驚かせないようそっと近付き、ぺこりとお辞儀をしてから、そっと桜モーモンを抱き上げた。
どうやら桜モーモンには向かいたい場所があるらしい。
視線と仕草に促されるまま、街を抜け、細いけもの道をずんずんと進む。
やがて少しだけひらけた場所に出る。
木々の隙間から射し込む陽の光が、大きめの石と石を組み合わせた言ってしまえば粗雑なオブジェを静かに照らしていた。
桜モーモンはごましおから離れると、お返しのように一礼し、そっとリンドウの花をオブジェにそえた。
そして静かに目を閉じ、頭を垂れる。
「…そっか。大事な人のお墓なんだね」
そっと桜モーモンの隣に進み、カボチャのカゴごと、集めたお菓子を御供えするごましお。
そんな様子を、所々破れて荒ぶれた古めかしいカミハルムイ様式の服装に身を包んだ亡霊が、頬杖をついてじっと眺めていた。
「…我に南瓜の角灯を供えるとは。意味が分かっておるのか?」
亡霊は生者には届かぬ声で独り言つ。
頬杖だけでなく不遜にも古びた墓石の上にあぐらをかくが、まあ、遺骨も何もありはしないとはいえそこは自らの墓の上なのだから、さもありなん。
「いや、分かっておるはずもないか…」
天国へも地獄へもいけず、角灯を持って永遠に彷徨い続ける…。
今日という日、さらには墓の主カギロイにとってはお誂え向きな皮肉ともとれるが、桜モーモンと並び真摯に手を合わせる少年の姿には、嘘も嫌味もない。
生前、自らが望み、終ぞ叶わなかった魔物と連れ添うアストルティアの民の姿がそこにはあった。
「…悪くない」
菓子に込められた思いを手に取り味わう。
久々に口へ運んだ琥珀糖は、とても澄んだ味がした。 ~了~