一ヶ月に渡りメギストリス外れの特設会場にて開催されてきた、新技術博覧会。
各大陸の叡智が生み出した画期的な発明品、または研究段階の成果などが所狭しと並べられた会場も、会期の終わりが近づく今日に至っては人もまばらである。ドーム状の会場内、休憩用ラウンジを兼ねた二階席。夢の結晶の数々を見渡せるこの場所が、ハクトはお気に入りであった。
「やぁ、また来たのかね発明家の少年」
何となく予感はしていたが、彼はやはりそこに居た。逆に言わせてもらえば、係員でもあるまいし、毎回ハクトが訪れるたびに会場にいる彼のほうが、よっぽどまた来たのかという台詞を投げられるに相応しい。
奇抜な観葉植物のように立ち昇る髪の毛は会うたび色が違って、今日はまさしく鉢植えに嵌っていそうな黄緑に染まっていた。
「…ふむ?何かあったのかね?人の心の機微など知ったことではないが、その顔は知っている。何をやっても上手く行かない、アイデアが何も浮かばない、まあ私ほどの稀代の天才となればごくごく稀だが、そういう日に鏡を見れば、まず間違いなく今の君のような顔が映っている」
プクリポの男はこちらの返事などお構いなしに捲し立てる。
ハクトにとってはとんと記憶に無いのだが、彼の方は何故だかハクトの事はおろか、腰に下げた剣のギミックまで知っているらしく、夢中になって新型エンジンのメモを取っているときに話しかけられてからの縁だ。
まだ実用化されていない新システムに対して、実働にあたっての技術的問題点、果ては改善すべきポイント、具体的な改修プランまでを非常に的確に、かつ、多少の造詣があるとはいえその方面では素人然なハクトに対して、図示も無いのにバッチリ伝わるように語ってのけた彼のことを、ハクトは密かにメギストリスのアカデミーの教授なのではないかと踏んでいた。
であれば、メギストリスに入り浸っているかの如く毎度鉢合わせることにも説明がつく。
背伸びして手すりに引っ掛かるようにして会場を見下し続ける彼の不遜な背中に、何故だか素直にハクトは悩みを打ち明けてしまっていた。
アズランの舞台から飛び降りるような気持ちで打ち明けたのだが、返る答えは実にシンプルだった。
「何だ、そんなことか」
「…随分呆気なく言いますね」
とはいえ、そのリアクションは何となく予想がついていた。
彼はそう、なんというか、危うい。
天上天下唯我独尊。
傍若無人が形を成したような人となりで、あまり深入りするべきではない相手であろうことも薄々感じていた。
「答えは君だって解っているだろう?」
「………」
「まずはベイロードの確保だ。片手剣では仮に多少豪奢な鞘を着けたところで限界がある。私ならば両手剣をベースにするね。柄が長くなる分、展開時にチャージされるエネルギーの増大も見込める。刀身の長大化による威力の向上は言わずもがな、だ。さらには………あるからして………の構造は………によって………」
その後も淡々と続く講釈は、ほとんど聴こえていなかった。
彼の提案は、的確、なのだと思う。
大人達に、フィズルに、そして誰よりも父に、認めてもらうにはとにかく力だ。
しかし、一日二日で背は伸びないし、筋肉もつかない。
となれば、スーツの改良だ。
実のところ、プランは既にいくつかある。
だが、果たしてそれは…正解だとしても、正しい事なのだろうか?
誰も答えをくれない難題を抱え、思考が堂々巡りに陥るハクトであった。
続く