「きゃ~~~っ!!…し、死んでるゥ!?」
ダイバースーツに身を包んだアストルティアの誇るアイドル、テルルはその化け物じみた声量を存分に発揮し、まさに絹をさくような悲鳴をあげた。
遥か深き海底という、限りなく広い密室の中、事件は起こったのだ。
遡ること2時間ほど前。
一行はレンドアにて、いまいち頼りない二人組、学者コルチェとその助手ククコリから依頼を受け、かつて栄華を極めたガテリア皇国、その繁栄を支えた資源の眠る地底湖の探索に繰り出した。
海底という未知なる領域とはいえ、ヴェリナードの擁する潜水艦、レヴィヤルデ、レヴィヤットによる海底潜航の経験は必ず糧となるだろう。
さしてクエストの難易度は高くない。
しかしそんな目測は、突如として鳴り響いた警戒音であっという間に砕け散った。
所詮は個人開発による潜水艇、一行に用意されたガテリア号は目的地を目前とする中、機械トラブルにより海底に座礁することとなる。
とはいえ、座して死を待つ彼らではない。
直ちにダイバースーツを身にまとい、修理に繰り出したのであったのだが…。
「状況を整理しましょう」
皆が戸惑う中、未だその長いピンクの髪から海水を滴らせる知者、ブラオバウムが口火を切る。
「我々は手分けをしてガテリア号の修理にあたりました。ロマンさんは管制室にて散らばった部品のマッピング、フツキさんはガジェットを活かし歯車など細かいパーツの探索、セ~クスィ~さんは魔装のパワーを存分に発揮できる酸素タンク等大型部品の回収、そして私が感電の危険性を考慮しバッテリー回収、テルルさんには歌によるアビサルシャーク、しびれくらげなど害性生物への対処。そして…」
「…マージンが、部品回収後速やかに修理にあたる為、1人メインルームで待機していた」
遺体に目を向けつつ、セ~クスィ~があとを告ぐ。
からくも目的を果たし帰還した彼らを待ち受けていたのは、ガテリア号のメインルームにて、尺取り虫のようにお尻を掲げ突っ伏した姿勢で絶命している無惨なマージンの姿であった。
「状況証拠から考えれば、犯行のチャンスがあったのは…」
ブラオバウムの目線につられ、一斉に皆がロマンに向いた。
「いやいやいや!そりゃ確かにずっと船内に居たのは俺っちだけだが!!絶えずソナーでパーツの位置を指示してたろ?管制室から抜ける暇なんて無かったって!!それに、物資の格納のために皆もちょくちょく引き返してただろ?」
ソナーは巨大で、持ち出しは不可能。管制室とメインルームの行き来には狭い通路、道中何箇所もエアロックによる開閉に手間暇のかかる扉がある。
「確かにそうだな…。ロマンの指示は実に細かく的確だった。管制室から離れる余裕があったとは思えない」
海中作業中、何度もその指示に助けられたセ~クスィ~が真っ先にロマンに同意した。
「だいたい、俺っちにとっちゃあ、マージンは大事な金ヅ…もとい、上々顧客様だぜ?今後も修繕費とか増改築費とか…ああ!その辺考えるとマジで懐が痛い!!」
「…ロマンさんには動機もない。となると」
一番、動機があると思われる人物にブラオバウムの目線が移動する。
「フツキさんだけは、自前のガジェットで探索を行っていましたね」
「…確かに、俺っちもフッキーだけはモニタリングしてねぇ。無線も飛ばしたが、応答は無かったな」
状況証拠を突き付けるとともに、ブラオバウムとロマンの視線が厳しくなる。
「いや待て。仮にもマージンは相棒だぞ?それこそ手にかける意味が無いと思わないか?」
「それはどうかな?相棒といえば聞こえは良いが、その実、マージンのやらかしの尻拭い役。日頃から恨みつらみが溜まっていたんじゃないか?」
セ~クスィ~の鋭い指摘に、皆一様に力強く頷く。
当のフツキの首までも、縦にしっかりと動いてしまったのであった。
「…地上に戻り、疑いが晴れるまでの処置よ。悪く思わないでね」
仲間にこんな仕打ちをするのは、声をかけたテルルはもちろん、皆誰しも気が引けるが、やむを得ない。
果たして自供も物的証拠もないものの、ロマンが急ごしらえで鍵を作り、フツキは船室の一つに拘束されることとなるのであった。
続く