そうして、孤児院の屋根修理を皮切りに、ヒッサァとハクトは次々とクエストをこなしていった。
クエストに要する時間や場所、必要となる物資も含めたヒッサァの見立ては完璧で、複数の異なるクエストを同時に受注しながらも、それらはまるで1つの大きなクエストであるかのように無駄なく消化されていく。
そして今日はついに、チームアップの発端となった、イルマに関わるクエストに挑むべく、すっかり並び立つ姿が板に付いた二人は、チョッピ荒野に位置するとある場所を訪れていた。
「おうおう、何だぁテメェら?」
文明が崩壊した世界の住民のような荒んだ服装のプクリポ、プヤングは魔窟アラモンドの入口に歩み寄る二人の姿を見るなり凄んでみせる。
「この先に用がある。通してもらえるかな?」
聞こえたのは至っていつも通りの、ヒッサァの温和な声のはずだ。
だが、その背中ごしに、薄ら寒くなるほどの畏怖をハクトは感じた。
「…さ、行こうかハクトくん」
振り返ったヒッサァはやはりいつもどおりの笑顔だったが、その向こうでプヤングは腰を抜かして尻餅をつき、真っ青な顔でガタガタと震えていた。
おまけに鼻水を垂らし、半ベソまでかいている。
あまりジロジロ見るのも可哀想だ。
慌てて既に先を歩むヒッサァを追いかける。
そこかしこで喧嘩、もといお笑いネタの応酬や、パスタやポップコーンの早食いで優劣を競いあっていたり、糖分の摂り過ぎで胸焼けを起こし地に突っ伏している者がいたり。
ハクトが当然初めて訪れたアラモンド鉱山内はまさしく魔窟と呼ぶに相応しい有様であった。
「こういう場所では、キョロキョロしないこと」
「あっ、はい!すみません!」
忠告を素直に受け入れ、まっすぐヒッサァの後に続く。
やがて、建材の素朴さを除けば、メギストリスの一等地にあってもおかしくはなさそうな、ポップできらびやかな店の前にたどり着く。
バズスイーツカフェ。
今や裏ルートを含めても細々としか流通していない希少なアラモン糖を惜しげもなく使用したスイーツがうりの、その筋では有名な店舗である。
ヒッサァはここである人物と取引を行うと言っていた。
果たして、鬼が出るか蛇が出るか、扉をくぐった先に待ち受けるはどんな怖ろしい相手だろうか。
緊張から生唾を飲み込むハクトであったが、巨大なパフェを片手に、振り向きざま、頬にばっちりクリームをくっつけているお茶目なプクリポ女史は、ハクトもよく知る人物だった。
「…あら?」
予期せぬ出会いに、超駆動戦隊ドルブレイブの頭脳、おきょう博士は感嘆の声を上げる。
「あ…どうも、ご無沙汰してます」
ハクトもまた、この魔窟アラモンドという場所と現れた人物のギャップに戸惑いつつも、ぺこりと頭を下げる。
「何だ、知り合いだったのかい?なら、話は早いね」四人がけのテーブル席、おきょう博士に向かい合う形でヒッサァとハクトも腰掛ける。
「さて、大事な話の前に、お店への礼儀もある。マスター、彼女と同じ物を2つ」
「かしこまりました~」
星が散りそうな明るい返事とともに、テキパキと大きな器にゼリー、フレーク、クリーム、スポンジケーキにアイスが順序立てて積み重ねられ、胸躍る尖塔が完成した。
「「「ん~っ、あんま~~~い!!!」」」
3人揃ってまずは甘味に溺れた後に、余韻もそこそこ、本題に入る。
「これが例の…?」
ヒッサァはおきょうから差し出された、ポケットにも収まりそうなほどの小さく白い球を手に取る。
続く