大きなクエストが、終わった。
ヴェリナードから帰還した魔法建築工房『OZ』の大棟梁ロマンは、工房の自慢の設備の一つ、檜をふんだんに使用した大浴室、その中にある滝とみまごう迫力の打たせ湯の中に己を委ね、儀式にあたる前に身を清めていた。
やがてOZのエンブレムの刻まれたカミハルムイ様式の礼装に着替えると、蔵から取り出した御神酒を携えて、工房の裏手にそびえる建材確保と近隣の自然環境保全を兼ねた山林をまっすぐ奥へと分け入る。
木々の隙間から差し込む陽の光の暖かさを感じ、小鳥たちのさえずりを伴に山道を四時間。
山頂にもほど近いひらけた空間、その中央にまるで山の主かの如く存在を誇示する大きな大きな楓の木がそびえ立っていた。
一度は開拓者達に伐採され、切り株を残すのみとなりながら、そこから萌芽し、ふもとからでも雄々しく見える巨木へと成長したと伝わるこの楓は、季節によりに七色にその葉を変様させることから、虹の大楓と呼ばれ親しまれている。
その根本付近、そっと優しく土を掘り、一欠の木片を埋めた。
それは、アルティメット・アーマード・エグドラシル・ミリティアル・ユース・カスタム・ダッシュターボアクセルマーク2の一部。
その核となったエグドラシルは種子を残し、次代へ繋いだが、ロマンの建築物としてのアルティメット・アーマード・エグドラシル・ミリティアル・ユース・カスタム・ダッシュターボアクセルマーク2は、海底離宮とともに眠りについたのだ。
「地鎮祭すらやってやれなくて、すまねぇ」
敵地だったから。
突貫工事だったから。
そのような言い訳を、ロマンは持たない。
ただ真摯に、100人の仲間を護ってくれた愛娘に跪いて頭を下げた。
出来る限りの万全は尽くしたと自負するが、どうしたって悔いは残る。
火炎に対する防護をさらに何とか出来なかったか。
超駆動戦隊ドルブレイブの誇る機動兵器、ドルセリオンの存在を事前に知れていれば、連携がとれたのではないか。
それらすべての後悔を、改良プランに転じて心のノートに刻むと、2つ用意した盃に清酒を注ぐ。
あとはただ静かに、アルティメット・アーマード・エグドラシル・ミリティアル・ユース・カスタム・ダッシュターボアクセルマーク2への感謝を胸に、盃を交わす。
次の現場(クエスト)に向かうまでのひとときを、優しく撫でる風と楓の木がただ穏やかに見守っているのだった。
~完 しかし冒険は続く~