今日もまた、激戦につぐ激戦だった。
アレスは初手の見張り番を引き受け、仲間が寝静まったあと、あたりにモンスターの気配が無いことを充分に確認した上で、その日の疲れを労うように相棒たる白星剣のメンテナンスに取り掛かる。
簡易テーブルに剣を寝かせ、携帯用の砥石、それぞれ用途の異なる丁子油を詰めた小瓶が2つに、各種の拭紙。
本当は工房にこもってしっかり行いたいところだが、野営の最中では致し方がない。
咄嗟の襲撃に備えての短剣を傍らに、出来る限りテキパキと腕を動かしていく。
焚き火の灯りを頼りに、携帯用の砥石で刃先をさっと整え、モンスターの血と油を落とすためまずは黄色味がかった椿油の方をまんべんなく均一に滑らせる。
その上から打粉をなじませた後、よく揉んだ下拭い用の奉書紙で、汚れを吸った油と打粉を吸い取らせながら刀身上を撫でていく。
剣が光沢を取り戻したところで、もう一つの小瓶、透明な鉱物油を油紙で塗布して仕上げである。
「あ…」
ふと、ポイントからカッティングエッジにかけてはさながらダイヤモンド、フラーはまるでオニキスのように磨き上げられた白星剣に映り込む星の瞬きが目に入った。
つられて宙を見上げれば、そこに一際強く輝くは、アトラス座のベテルギウス、こまいぬ座のプロキオン、おおこまいぬ座のシリウスを結んだ、冬の大三角。
「そうか、今日は…」
星の位置が、アレスに暦を告げる。
まだ交代の時間には随分と早いはずだが、そこへ近寄る、静かな足音があった。
「誕生日、おめでとうございます(ハピバウム)」
目的を果たす為、クエストに継ぐクエストで、すっかり日にちの感覚を喪失していたアレスが今日という日に気付くと同時、パーティメンバーの一人、ブラオバウムは優しく声をかけた。
「ケーキなど、気の利いたものは有りませんが…」
呪文でお湯を沸かし作った即席のココアを手に、これまでの冒険の思い出話が弾む。
戦いの狭間、暖かく穏やかな時間を、満天の星空がただ優しく見守るのだった。
~Happy Birthday~