オース大観音に続く、ニオウ門通り。
普段から商店が立ち並ぶにぎやかな道であるが、ことさら年始の今の時期はそれらに加え種々多様な出店がひしめき合い、一年に一度のめでたい時節を全力で盛り上げている。
一足先に袴に着替えを終えた男性陣は伝言役にハクギンを残して既に本殿へ向かっていた。
後を追う女性陣一同から少し先ん出て、兄ハクギンに振袖姿を褒められて上機嫌なフタバはスキップでも始めそうな歩幅で通りを歩む。
その様子があまりにも可愛らしいものだから、セ~クスィ~のみならず皆おねだりされるままに出店の品々を買い与えてしまうのはやむを得ない話である。
セ~クスィ~とともに通りで一番の老舗和菓子店でみたらしときなこ団子を買い、一舟のたこ焼きを女性陣皆でシェアし、バギマの旋風の如く螺旋に渦巻くフライドポテトに興奮し、わたアメに顔面ダイブしそうになるのを止められて、そして今はハクギンに買ってもらったイチゴ飴に舌鼓をうつ。
「甘くてパリパリする。面白い!」
フタバの大好物であるみたらしの如く串に刺された4つの苺は薄く琥珀色の飴がコーティングされている。専門店を謳うだけあって、朝摘み苺の新鮮な果汁の甘味と酸味を損なわぬよう、苺のまとう飴の衣は絶妙な固さと甘さに調整されていた。
やがて苺飴を食べきった頃には、目的地であるオース大観音まであと少し。
苺飴の刺さっていた串を処分するため、通り脇のゴミ箱へとフタバは一人駆けていく。
そこで不意に、フタバへ声がかかった。
「そこ行くお嬢さん。社に武器の持ち込みは禁止ですよ」
「その槍は、こちらで丁重にお預かりいたします」
こういったスタッフが常駐するのは参拝客の多い時期だからだろうか。
手水舎の近く、如何にも仮設といった感じの小さなあばら屋に立つ二人組は、さあさあとフタバに向かい手を差し出した。
「槍?ケラウノスのことか?ケラウノスは家族だ。どこでも一緒に行く。絶対に手放さない」
「残念ですがそうはいかないんです」
「だったら、ここまででいい。俺は初詣とやらにはいかない」
「いやいやそんな勿体無い」
「…困りましたね」
「…むう」
二人組のみならず、困ったのはケラウノスも同様である。
フタバにとっては自分の振袖姿をハクギンに見せることができて目的を果たしたかもしれないが、ここまで来て参拝せずに帰るのは、ケラウノス的に大失敗である。
それに、意志を持つとはいえ、なるほどおっしゃるとおり、自らは武器である。
寺社仏閣に持ち込むのは、確かに問題があると言える。
「残念だがフタバ、私はここで待機することにする」「俺も残るぞ」
「駄目だ。神の前で無心で祈れば、胸に秘めたる願い事が叶うと言われている。単独でも作戦目標を達成されたし。お互い、位置はモニターできている。問題はなかろう」
「うう…でも…」
「セ~クスィ~達が待っているぞ。早く向かうといい」
目の前の二人組と、往来でフタバを待つ一同との間を何度も見比べたのち、フタバは渋々ケラウノスを手渡した。
「大事に持っていてくれよ?」
「「もちろんですとも」」
「さあフタバ、早く皆のところへ…」
送り出そうとして、そこでようやくケラウノスはおかしな事に気が付いた。
今自分を握る男の顔に、見覚えがある。
昨日の宴会に参加していた冒険者の一人だ。
名を確か、マージンという。
ハクギンの親友、ハクトという少年の父親にして、フタバが大地の箱舟においてハクトとの会話から『ろくでもない人間』と認識している人物である。
「待(て、フタバ。………………!?)」
呼び止める声を出したつもりが、何かに打ち消されたように音が消える。
ふと見上げれば、マージンの隣に立つエルフの男はケラウノスのデータにない印を指で結び、呪文を発動している。
(呪文で音波振動を操って音声を相殺した!?…何故!?)
二人の目的が解らず、混乱するケラウノス。
その逡巡が仇となり、そうこうしているうちにフタバはケラウノス預けた理由をセ~クスィ~達に説明すると、くるりと振り返って遠くからケラウノスに手を振り、本殿を目指し歩を進めてしまうのであった。
続く