あるべき場所に落ち着いた所で、ケラウノスは先程撮影した写真をメモリーからあらためて確認する。
それはほんの少し前、アマセとマージンを無力化したのち、引き続きケラウノスは参拝客に見つからぬよう慎重にメタッピーを操って、オース大観音近くの木の上にとまらせた。
そこからは、初詣に訪れた人々の姿がよく見える。
(…間に合ってよかった)
最大望遠で様子を覗えば、ちょうど参拝の順番が回ってきて、フタバが賽銭箱に小銭を投入れる所だった。
(………なんという事だ)
いきなり力強く上段に小銭を振りかぶる姿に瞠目。
フタバの出力では仮にそのまま投げていたら小銭は砲弾の如く御本尊を撃ち抜いていた事だろう。
隣に立つセ~クスィ~が咄嗟に止めてくれて、本当によかった。
(………)
やがてテルルに所作を倣い、すっと姿勢を正して拝礼するフタバの姿をメタッピーの目を通して写真におさめ、ケラウノスはメモリーに鍵付で保存したのだった。
フタバの背に揺られながら、その写真をあらためてまじまじと確認する。
そこかしこ、昨晩の残り雪に陽光がキラキラと反射し、やや頭を傾けた事で晒されたフタバのうなじを照らしている。
雑念なくただ無心に瞳を閉じて祈りを捧げるその横顔は、お世辞でなく美術館に飾られている彫像のようで…。
「…馬子にも衣装………いや違う…息を飲む、という言葉の意味を学習した」
「ん?何か言ったか?ケラウノス」
「いや、何でもない」
まさか晴れ姿に見惚れて言葉が漏れたなど、気恥しくて言えようはずもない。
「そうか?ところでケラウノス、今日のお昼ごはんは何だか知っているか?」
「工房にて着替えた後、デリバリーによるホーライ軒の鰻丼の予定である」
超兵器ケラウノスの最近の役割は、もっぱらフタバに食事の内容を伝える事であった。
「…うな…?」
聞き慣れない単語にフタバの足が止まる。
「川魚の一種である。それを開き、門外不出の特製タレで炭火でこんがり仕上げた蒲焼きを米にのせたもの。その肝を使った汁物と肝の串焼き、蒲焼きを巻き込んだ玉子焼きもセットとのこと」
語りながら、超駆動戦隊ドルブレイブのデータベースから拝借した資料映像をフタバに転送した。
「うわぁ!美味しそうだなぁ!!早く帰ろう、ケラウノス!」
フタバは笑顔を浮かべて走り出す。
彼女は神に何を願ったのだろうか。
願わくば、その望みが叶わんことを。
一年の初め。
純粋な願いを神に捧げるケラウノスであった。
~完~