影達と分断されたとはいえ、充分な時間を得て再度黒炎を生み溜め込んだ漆黒の太陽は、狙いを読まれやすい収束放出を止め、位置を変えながらハクトことブレイブジュニア目掛けて小刻みに黒炎の塊を吐きかける。
さながら流星の如き速度で不規則に動く太陽を、ハクトの視線は追い切れない。
盾に組み込んだことにより、半球状になっているコントラクションオーブの効果範囲では、この攻撃をやがてカバーしきれなくなるとハクトは素早く判断した。
「それなら!『鎧化(アムド)』!!!」
ハクトの音声コマンドを受けて、高く掲げたナイアルウェポンがバラバラに散り、ブレイブジュニアスーツの上に更なる鎧として合体する。
もとの外観を踏襲しつつ、加わった縁取り付きの装甲が、より重厚で刺々しく全身を彩り、仲間には安堵を、敵には威圧を与えるシルエットに仕上った。
あらためて胸部中央に収まったコントラクションオーブが、ひときわ眩い輝きを放つ。
各パーツの配置が変わった事により、エネルギー経路も変更され、より潤沢な供給を受けられるようになったのだ。
この状態のハクトに、もはや死角はない。
とはいえ、代償も大きい。
ヘルメット内のマルチモニターには、カウントダウンが表示されている。
エネルギーの消費が極大となるこの姿の継続は、最長で5分。
既にこれまでの戦闘での消費もあり、カウントダウンは3分を切っている。
更にはこの間も、降り注ぐ雨のような黒炎弾によりカウントダウンはガリガリと削られていく。
「…一気に、決める!」
装甲がパージされ、もはや盾と呼ぶには心許ない細身となったナイアルウェポンの基部に再び剣を戻せば、剣を飲み込んた盾そのものが穂先に転じ、柄が延伸して、ブラッドスピアーに似た槍へと変形する。
これぞ命名の由来、千の無貌と詠われる架空の神の名をあしらった新装備の真なる姿だ。
とはいえ、ヒッサァのような卓越した槍の扱いが一朝一夕で身に付くはずもない。
槍を握る右腕が、スライドした装甲により槍と一体化する。
ヘルメット内のモニター越しに漆黒の太陽を睨みつければ、電子表示のターゲットスコープが獲物を中央に捉える。
「ブーストランス、レディ…ゴー!!!」
鎧と転じたことにより、巨大な槍の穂先は勿論、コントラクションオーブの燃料としてストックされていたギガボンバーもまた、装甲材と共にスーツの随所に散っていた。
それらを一斉点火、ブレイブジュニアスーツと増加装甲材の隙間を噴出孔として、エネルギーの続く限りハクト自身が砲弾のごとく敵を自動追尾する。
一方的に攻撃していた漆黒の太陽も、流石のハクトの様相に逃げに転じた。
「ぐぅ…まだセーフティーに改良が必要か…」
敵を追尾するため噴出孔の位置を変えるには、当然身体を動かすことになる。
その際、関節が身体構造を無視した無理な方向を向かないようプログラムは入念に調整したつもりだったが、加速に伴う遠心力の影響の計算式が甘かったようで、節々に走る痛みにヘルメットの中で顔をしかめる。
だが、今はその甲斐あって、次第に漆黒の太陽との距離が詰まってきている。
しかしカウントダウンも遂には残り10秒を切る。
「あと少し…少し…少し…!!!」
何処まで逃げても追いすがってくるハクトに対し、鼻水のようなものすら垂らして無様に飛ぶ漆黒の太陽の背を、遂に槍の先端が捉える。
「Got it!!」
その瞬間、人差し指にあたるトリガーを引き絞れば、残るすべてのエネルギーとライトフォースが穂先から放出され、内側から極大の光に焼かれた漆黒の太陽は、大玉の花火の如く砕け散った。
「うわっとっとぉ…!?あべっ!」
エネルギー切れでもとの盾に戻ったナイアルウェポンを下敷きに間一髪で着地、もとい、墜落してごろごろと土に塗れる。
「しまらないなあ。まぁ、今の僕なら、合格点かな」満足したわけではない。
だが、一つの成果はしっかりと受け止める。
それもきっとまた、自分の成長に繋がるのだ。
しばらくは、指一本動かせそうにない。
大の字に寝転がったまま、ハクトは達成感に笑みを浮かべるのだった。
続く