「ンマァァァアアアアアアァァァ…ィ!!」
バリバリという激しい咀嚼音と共に、やたらビブラートの効いた感嘆の叫びが響き渡る。
「このポップコ~ンなるもの、と~っても美味であるな~!」
その声のボリュームもさることながら、肌は随分と青みが強いがオーガと思しき高い座高から発せられる奇声はドーム状の会場内によく響く。
何席か前に座る観葉植物のような髪型をした目つきの悪いプクリポの観客が振り返り、モノクルのレンズ越しに睨みをきかせて舌打ちするが、お構いなしに
男はポップコーンを貪り食う。
露骨な嫌味を向けても無意味と悟り、ケルビンは憤慨しつつも再びステージへと視線を戻す。
ケルビンの他にも、大きな掌をしっかり広げてカップ内のポップコーンを鷲掴み、放り投げるように口へと運ぶ乱雑な食べ方ながら、見事一粒もこぼさず、ポップコーンへの称賛の言葉を連呼し続けるヒゲの豊かな男の姿を、空席を一つ挟んだ隣から見つめるつぶらな瞳があった。
静かにしてほしいとは思うものの、同じくドルブレイブショーの売店でのみ販売されるアクロバットケーキ味のポップコーンを愛するプクリポの少年ごましおにとって、その食べっぷりは同好の士として嬉しい事でもあるのだ。
ごましおもまた、ポップコーンの男からステージ上へと視線を戻す。
大地の箱舟の残骸をリノベーションした常設劇場を手に入れた劇団であったが、こうして引き続き地方巡業も継続して行っている。
記念すべき新年一回目のドルブレイブショーはドワチャッカ大陸、ドルワーム王国にて開催されていた。とりわけこの会場においては、大掛かりな舞台装置がウリとなっており、なんとステージ上にドルセリオンの上半身が再現され、ど迫力のアクションで観客を湧かせてきた。
しかしながら、観客は常に新鮮なネタを求めるものである。
「えっと…ガルドリオン…だっけ?」
ごましおは隣のハクトにそっと小声で今季のショーの目玉、ドルブレイブの2号ロボの名前を確認した。
どうにも、横文字は覚えづらいものである。
「ドルバリオン、だよ」
ごましおの間違いを、ハクトは同じくそっと小声で訂正した。
ドルセリオンを構成する5台のスーパードルボードの中にももちろんバイクタイプは複数含まれているが、アカックブレイブのドルストライカー、ダイダイックブレイブのドルダイバーなど、多様な形態のドルボードで構成されている。
ドルバリオンはその名の通りバイクタイプのみで構成される巨大兵装で、ドルセリオンより細身のシルエットを持つ外見通りのスピード重視型の機体となっている他、各機に分離し、強化パーツとしてドルセリオンとのスーパー合体も可能という、まさにちびっ子の夢を具現化した代物であった。
ちなみに勿論、劇中だけの空想の産物である。
完成間近で強奪されてしまい、悪の手先に落ちた二号ロボ。
ドルセリオンと異なり自動操縦システムを搭載していたのが災いし、上書きされたプログラムをもとにドルバリオンは悪逆の限りを尽くす。
完全無人機故のドルバリオンの速度に苦戦するドルブレイブの一同は、最後の賭けに出る。
理論上のみでまだ一度も成功しておらず、失敗すればドルセリオンもろとも爆散するリスクを承知の上で、ドルセリオンとドルバリオンをスーパー合体させることで制御を取り戻すという荒技だ。
限りなくゼロに近い成功率を勇気で補い、見事ドルバリオンを正義の手に取り戻すエンディングのシーンは、ヒーローものの定番にして鉄板のありきたりな展開ではあったが、先述の実物大のドルセリオン胸像などの助演もあって、鳴り止まぬスタンディングオベーションに包まれた。
「ブラ~ボ~!ブラ~ボ~なのであ~る!!」
しかしここでもまた、声クソデカおじさんが感動に水を刺す。
小遣いを貯めて、期間中にまた見に来よう。
無言で見つめ合い、頷きを交わすごましおとハクトであった。
続く