かくしてショーは幕を閉じ、壇上での握手&サイン会へと移行した。
そうしてまばらになった客席で、観葉植物のような髪型のプクリポの男ことケルビンは、アゴに手を添え思案を巡らせる。
「なるほど、合体による乗っ取りね。うんうん、やはりたまには凡夫な脳みそどもと戯れてみるのも悪くない。偽物を暴れさせるより、よっぽど愉快痛快じゃあないか」
ケルビンは足元に打ち捨てられた空っぽのポップコーンカップを割り開き、懐から取り出したペンでさっそく図面を引き始める。
「…うむ、観劇中から予想はしていたが、やはり頭部から胴体を一台で担うコアメカをバイクタイプとすると…全体のフレーム強度が不足するな…。なるほどその点、ドルセリオンは頭部肩部と胴体で分割しているわけか。…いや違うぞ、おきょうを褒めたわけではない」
誰も聞いてはいないが、すかさず注釈を入れる。
「それに、まるごと劇中の産物に似せるのも芸が無い。陸型のみで構成すると大陸間搬送にも支障が出るし…そうだな…」
構成するドルボードの選定に、変形合体機構のシミュレーション、繰り返し書いてはボツにし、その度に新たなカップゴミを探すが、品行方正な観客達がほとんどであり、そうそう都合良く紙ゴミは落ちていない。
遂には金網で作られたゴミ箱の中にまで入り込み、片っ端から書き殴る。
「…出来た!出来だぞ~ッ!!」
やがて困惑する係員が押す台車に載せられたゴミ箱から、悪役然とした怪しい笑いが木霊するのであった。
「エストリスもきっと気に入るのであ~る!」
ケルビンの悪魔のような計画が立ち上がる中、声クソでかおじさんこと、魔博士の一人ゾフィーヌはお土産にアクロバットケーキ味ポップコーンを買い占め、両腕に満開の花束の如く抱えていた事は、まったくの蛇足である。
そしてしばらく、穏やかに流れる時の中で、災厄が静かにその爪を磨いていたことを、誰一人として知る由もない。
それは太陽や影と同じくして崩壊するレイダメテスより生まれ墜ちたとき、ただの0と1の羅列に過ぎなかった。
500年も昔、当時の未だ原始的なマシンモンスターの内部にやっと己の身を保ち、淡々とただ待ち続けた。自身の権能を果たしうる身体が、そして世界が、作り上げられることを。
ようやく。
ようやくだ。
「やはりコアメカをマシンボードにしたのは名案だった。合体後のシルエットが実に煽情的で素晴らしい。ふむ…馬力はこれで充分か。これ以上はフレームが保たんしな。あとは武装…回転ノコにミサイル、光学エネルギー銃に…」
ガタラ原野の一角、名もなき山をくり抜いて造られた薄暗いドックの中。
ドルセリオンに酷似しつつ、しかし明らかな禍々しさを放つ漆黒の異様の瞳を通して、独り言を呟きながらキーボードを叩き建造アームを操作するケルビンの姿を、影すら持たない魔物は静かに見守るのだった。