接敵したダイダイックブレイブ並びにブレイブ2号の話を疑った訳では無いが、目の前にするまで、にわかには信じ難かった。
しかしこうして相手を前にした所、親しいおきょうの目から見ても、髪色以外の相違を見つけられない。
「…うん、大丈夫。空から落ちてきたんだったかしら?おそらく高高度、一時的な酸素不足による失神でしょう。意識が戻らないのは、度を超した疲労と寝不足が原因ね」
おきょうは横たわるセ~クスィ~に瓜二つの謎の女性の胸元から聴診器を離すと、ゼンマイ仕掛けの玩具のようにソワソワとベッドの周りを規則的にぐるぐる回るフタバに診断結果を伝えた。
「良かった!姐御はそのうち目を覚ますんだな?」
遠慮のないガッツポーズに建物が揺れる。
ここは劇団員の居住スペースである劇場の2階。
床が抜けなかったことをケラウノスは神に感謝した。
「ええ、安心して」
「目を覚ました時のために、みたらしを買ってくる!」
「その場合、粥などの消化に良いものがセオリーで………………聞いてはいないな…。まったく、腕の修復もままならんというのに」
相棒たるケラウノスすら置き去りに駆け出していくフタバの背中を、おきょうは微笑んで見送った。
「…ごめんなさいね。変わらず地脈エネルギーを活用していれば、フタバちゃんの腕はすぐ直るのに…」
落下加速度も増し増しに追加されたアカックブレイブの身体を受け止めたのだ。
如何に機械の身体のフタバとて、無事では済んでいない。
「地脈エネルギーを放棄したのは我らの選択。そちらが気に病むことではない」
自己修復機能の効率低下も含め、本来の設計における燃料源を切り替えた影響は随所に現れている。
しかし、兄弟機ハクギンブレイブとともに、アストルティアの民として歩む道を選んだフタバとケラウノスにとって、アストルティアの自然体系に影響を及ぼしかねない地脈エネルギーの放棄は、言葉の通り後悔のない決断であった。
「何にせよ、フタバが席を外したのは好都合である。今のうちにこの女性の正体について、意見を交換したい」
「そうね。フタバちゃんは…完全にセ~クスィ~だと思い込んでいるようだけど…。本人は今、基地の方でブレイブ2号、ソフラちゃんの手当てをしているわ」ケラウノスから意識不明のアカックブレイブを保護したとの連絡を受け出立の準備を進めるおきょうに、危険だからついていくと言い出して聞かないセ~クスィ~をなだめすかすのに随分と苦労した。
「フタバはアストルティアの冒険者の中でも武闘家をベースモデルとして設計された。対象を外観的特徴ではなく、気の色と流れで判断している」
「見た目だけで誤魔化される事は有り得ない、という事ね」
「そうだ。当機の分析においても、100%同一人物であるとの結果が出た。当機は腹部が実装されていない故、腹の探り合いというものに不慣れである。故ストレートに開示する。………かのゴフェル計画において、管理個体の同一存在、『複製体』なるものを作製し計画の運営維持にあてるプランの存在を確認している。詳細までは不明だが、『複製体』、言葉の通りとして、その線で考慮すれば全てでは無いがいくつかの疑問が解消する」
「………どうやってその情報を得たのかは、気にしないことにします」
国家機密、しかも超を5つか6つは付けても過言ではない話がケラウノスから飛び出したことに関して驚きは禁じ得ないが、今はまず先に解決すべき問題がある。
「『複製体』であると仮定して、セ~クスィ~を増やすメリットなんてあるかしら?」
友人の立場としては散々な話になってしまうが、おきょうはその点に首を傾げる。
セ~クスィ~は何というか…戦闘力と正義感を除けばその、フタバとよく似て、あれがその、あれである。
「シンプルに言えば兵器転用。アカックブレイブの戦闘能力は冒険者の平均から考えても頭抜けている」
友人を兵器と呼ばれて眉をしかめたいところだが、今は感情を廃して議論すべき時間だ。
おきょうはあくまでも理に沿って、ケラウノスへの反論を組み立てるのであった。
続く