「私が赤髪に染めたことなど過去一度もない!ダイダイックのイタズラでバケツいっぱいのトマト汁を被った事はあったが…!」
ジロリと皆の視線、とりわけセ~クスィ~の刺すような視線がダイダイックブレイブに注がれる。
「知らんてそれ!濡れ衣!!」
ぶんぶんと首を振るダイダイックブレイブをよそに、ケラウノスは事態を納めようと進言する。
「髪の色はともかく、今現在、当機の矛先が向いているのは間違いなく正真正銘のアカックブレイブである」
「ケラウーノス!?お前まで狂ったか!?」
「………説明のつかない事象として、遭遇時より、我々の呼称に関して逸脱した齟齬が見受けられる。当機はケラウノスである」
「お前も偽物だったようだな。まあいい、武器になればそれで構わん!」
引き続き説得にあたるケラウノスの声は、自らがアカックブレイブの手により風を斬る音に冗長されて届かない。
そうしてアカックブレイブとアカックブレイブの誰も望まぬ戦いが幕をあけてしまった。
流石に肩の上では攻撃を躱せない。
かくして不在となったドルセリオンの肩に慌ててダイダイックブレイブとブレイブ2号がスタンバイする頃には、分離していたドルバリオンも再び像を結び、今に至る。
「リーダーもリーダーで、一切反撃しないんだものな」
ダイダイックの言葉の通り、赤髪のアカックブレイブは魔装具も持たずただ攻撃を受け流し続けている。
「…例え敵であろうと、泣いている女を殴る趣味がお前にはあるのか?」
「それは確かに、そうだけど!…泣いてた?」
「涙が流れずとも、心が泣くことはある」
操縦の狭間にブレイブ2号がちらりと見た敵の背中は、とても痛ましく見えた。
「偽物めっ!」
何度目か分からない斬撃が、やはり同じく空を斬る。魔装の有無も大きな差であるが、体調不良は気合で振り払った筈のアカックブレイブの動きは、明らかに精彩を欠いていた。
違和感は最初からあった。
(…お客様、このゴールドはどちらで?失礼ですが、偽物のゴールドは使えません)
だが、認めるわけには、いかないのだ。
(いや、こないだ会った時と体重は別に…)
時渡りは成功した。
(ドクトルKって、誰?)
ここは、過去の世界なのだ。
(当機はケラウノスである)
時渡りは、成功したんだ!!
「何してるんだ姐御!!」
唐突に、頬を平手で打つ音が響く。
ただ意地をぶつけるだけの、戦いとも呼べぬやり取りを止めたのは、割って入ったフタバであった。
左手はケラウノスの刀身を握り締め、切断面からマシンオイルが流れ出る。
「あ…ミク…怪我を…」
「俺はミクじゃない」
「…お前まで…」
顔に浮かぶ絶望が、より色を濃くした。
「俺はミクじゃない。フタバだ。それでも貴女は、姐御だろう!?アカックブレイブなんだろう!?それがどうして、こんなことをしてるんだ!!」
がらんと音を立てて、手放されたケラウノスが転がり落ちる。
「…私…は…」
すがるような視線は、突如その身を包むように溢れ出した緑の燐光に遮られ、蒼髪のアカックブレイブは再び発動した意図せぬ転移によりその姿を消した。
その様子はまるで、この大地にすら、拒絶されているかのようであった。
続く