「認めよう。確かにドルブレイブのブレイン、おきょうは天才だ。たがしかし、それでも叶わんよ、『時渡り』はな。いやしかし、まことに遺憾だが、ある意味ではそれを超える偉業とも言える」
今、何と言った?
ドルブレイブのブレイン…すなわち博士の名が、『おきょう』?
誰だそれは。
………『時渡り』が、叶わない?
だとすればここは一体、何処だというのか。
「お前が超えたのは時ではない。世界の壁だ。いや、可能性と呼ぶべきか」
ビーチチェアから立ち上がり、アカックブレイブのまわりをゆっくりと周回しながらケルビンは話を続ける。
「時間と世界は、ひとつではない。朝飯を食べたか否か。ある人物と出会ったか否か。ありとあらゆる可能性と分岐の果てが、隣り合わせに存在する。そんな、本来であれば交わるはずのない絶対の壁を乗り越えた世界に、今、お前は居るのだ」
「………」
アカックブレイブの沈黙を、ケルビンは理解が及んでいない為だと判断した。
「やれやれ。流石は同位存在、赤ゴリラは赤ゴリラということか」
あからさまな罵倒にも、返る言葉はない。
「分かりやすいようもう一度、端的に言おう。お前は過去になど来てはいない。ここは、お前の存在した時間軸とは全く関係のない、別の世界なのだ」
無言の相手を前に、ケルビンはさらに流暢に話を続ける。
「お前の知る博士とは、おきょうという名では無いだろう?そして何よりも、だ。お前の名前を、言ってみろ」
ケルビンは最後の一歩を、あえて本人に踏み出させる。
「…ココソー、だ」
その答えに、ケルビンはにんまりと笑う。
「この世界の赤ゴリ…んん、もとい、アカックブレイブはな、セ~クスィ~という。既に出会っただろう?多少、似てはいただろうが、それは果たしてお前だったか?否、お前では、ない。それは誰よりもお前が一番に理解しているはずだ」
もはやこれ以上は、自分を騙すことができない。
「ば…かな…それでは私は…」
使えないゴールド、すっかり油断した体型のダイダイックブレイブ、フタバという知らない名前、赤い髪をした自分ではないアカックブレイブ、誰が見ても明らかな違和感に蓋をして、誤魔化してきた。
そうして辛うじて保ってきた心の支えが、ガラガラと崩れる音がする。
ここは過去ではない。
であれば、送り出してくれた皆を救うことは、けして出来ない。
私が戦う意味など、もはや何処にも無かったのだ。
「ふふ、そうしてそこで膝を折っているがいい。そのほうが都合が良い。実に、実にな!ふははははははははは!!」
身じろぎ一つせず、虚ろな瞳で座り込むココソーを残し、ケルビンはマシンボードに飛び乗り、去っていくのだった。
続く