ケルビンの種明かしによりココソーが絶望におちいる3日ほど前、意図せぬ二度目の転移の瞬間に時間はさかのぼる。
「すまん、ダイダイック、2号、手間をかけた」
自らと瓜二つの相手のことは気にはなるが、消えてしまった以上は仕方がない。
フタバとともにおきょうもまたこの戦場に舞い戻ってきている。
言わずともフタバならおきょうを護るべく行動してくれるとは思うが、ドルセリオンで敵を押し返し、安全を確保する必要がある。
目の前の問題を解決すべく、アカックブレイブは再びドルセリオンに飛び乗った。
「…助かった~。そろそろ三半規管も限界だったんだよな」
「安心するのは、まだ早いぞ」
操縦をアカックブレイブに代わり地に降りたブレイブ2号の研ぎ澄まされた聴覚は、こちらへ接近する無数の金属音を捉えている。
ココソーの魔装ベルト内のデータにより未来を識った。
そのことにより、ユートピアは急速な成長を果たしていた。
高度な集積回路に触れ、思考のレベルが高まったことも一因ではあるが、何よりも、未来の出来事を通して自身に何が出来るのかを知ったことが大きい。
手始めに、ちょうど運悪く魔装ベルトに接近した特殊なたけやりへいことハクギンブレイブを催眠状態に陥れ、未来から来たアカックブレイブすら利用して、理想の身体どころかもはや脅威ですらある魔装ベルトの破壊に成功した。
そして今また一つ、ドルバリオンに戻ったことにより、新たに使用可能となった権能を発動する。
「ちょっ!!いくらなんでも多すぎ!」
ドルバリオンの通信システムを利用した、マシン系モンスターの統率。
今はまだ、範囲は限定的なものであるが、それでもユートピアの指令はモリナラ大森林に匹敵する広範囲に渡った。
キラーマシン、メタルハンター、たけやりへいにとうろうへい。
ユートピアの呼び掛けに応えるように次から次へと現れて、戦場を埋め尽くしていく。
事ここに至り、これまで自己の存続と最適な宿主を探すことしか行動原理の無かったユートピアは、未来の自身が掲げた目標の素晴らしさを理解する。
(ウツクシイ…)
意思も感情も、不純物に過ぎない。
与えられた命令を90%でもなく110%でもなく、正確に100%でこなすこと。
それこそがユートピアが望むものであり、そしてそれは、与えられた性能に基づいて、まさしく機械的に動くマシン系モンスターにしか成し得ない。
正確無比なマシン系モンスターこそ、この世界を統べるに相応しい。
そして彼らに覇権をもたらすためにこそ、自身は生まれたに違いない。
その為にはまず、より遠くまで届く『声』が必要だ。ドルセリオンを強奪しその出力をドルバリオンと直結することで、指令範囲は格段に拡がる。
そのことは密かに連絡をとってきたドルバリオンの設計者から聞かされた。
魔装ベルトほどではないといえ、このドルバリオンを作り出した男だ、何かと利用価値はある。
その進言に基づき今こうしてドルセリオンに強襲をかけつつ、また新たな権能を試す。
それは、侵攻初期における未来の自身の失策を省みたものである。
単純にマシン系モンスターに指示を出すだけでは、単調な攻めと状況に応じた柔軟な対応が難しい。
それ故に、何度か辛酸を舐めることとなった。
では、どうするか。
「動きが…変わった?」
ドルセリオンの肩から戦況を見渡すアカックブレイブは勿論、最前線でまた一体のキラーマシンを倒したダイダイックブレイブにブレイブ2号もまた、敵の変化を感じ取る。
雪崩で押し潰すような物量に訴えた大味な攻めから、各個の性能に基づいて隊列を組み、さながらチェスの如く緻密な攻めに切り替えてきたのだった。
続く