「よし、残る敵を蹴散らすぞ!」
現状、敵の根絶は不可能だとしても、旗艦機を潰せば流石に撤退せざるを得ないであろう。
しかし、そんなアカックブレイブとおきょうの目論見をあざ笑う声が響き渡る。
『ふは~っはっはっはっ!甘い!蕩けるようにスウィ~トだぞ貴様ら!!』
「ケルビン…!?」
スピーカー越しのくぐもった音ながら、その忌々しい声の主がドルブレイブの面々に分からないはずもない。
声の出元を探り空を見上げた先には、衝撃的な光景が浮かんでいた。
「マシンボードだと!?」
アカックブレイブの睨む先で、無人のマシンボードがユートピアに感染した証たる紫電をまとう。
『さぁ諸君、第2ラウンドだ!ドルセリンの残量は充分か?悪足掻きくらいはしてくれたまえよ!』
未だ収まらぬ爆炎の中に飛び込んだマシンボードを中心に、再びドルセリオンの前にドルバリオンがそびえ立った。
「くっ!パワーが…!」
間髪入れず振り下ろされたドルバリオンの右腕、回転ノコギリをからくもシールドで受け止めたドルセリオンであったが、支えきれずに片膝をつく。
ケルビンに指摘されるまでもなく、ドルセリン残量不足はドルセリオンを操るドルブレイブの面々が一番理解している。
「貴方っ!自分が一体どんな相手に手を貸しているか、わかっているの!?」
『分かっているとも。お前たちよりもよっぽど正確に。コイツによって滅びるらしいな、アストルティアの民は』
淡々とケルビンから返った言葉はある意味、予想通りでありながらも、到底理解の及ばない考えであり、おきょうは絶句する。
それはまだ、ドルバリオンが形になっていない段階。ユートピアは巧妙に痕跡を消したつもりであったが、基盤をわずかに走った電子ノイズを見逃すケルビンではなかった。
機械に伝染する意思持つプログラム、その存在の発見に歓喜し、また同時に、それを自らが思いつかなかった事に屈辱を覚えた。
自らの作品でないのが残念だが、それならそれで、自らの欲に沿って、最大限に利用する。
遠くない未来、アストルティアの民を滅ぼすほどの存在に、おきょうをはじめ自分を認めなかった科学者達はどのような対抗策を練るのか。
そしてそのことごとくを、ドルバリオンを筆頭に己が発明で踏みにじる。
考えただけでワクワクが止まらない。
『ああちなみに、切り札足り得る蒼髪のアカックブレイブだが、あれなら次元の狭間に墜ちてあと3日は戻ってこないぞ。エスコートの準備なら整っているから安心したまえ』
ケルビンの言葉をデタラメと断じることはできるが、悔しながらケルビンが優秀であることは疑いようはなく、その言葉を信じるにせよ信じないにせよ、今この場に敵をよく知る未来のアカックブレイブがいないことに変わりはない。
「この手で打ち破るまで!!」
ダイナミックドライブは距離が離れれば離れるほど伝送のラグで操縦の難度が跳ね上がる。
加えて砂糖に群がる蟻の如くキラーマシンにまとわりつかれ、増加した重量に駆動系がバチバチと火花を散らし悲鳴をあげている。
形勢の不利は明らかだった。
続く