「なぁ、オッサン」
「アニキと呼べアニキと」
「ぶっちゃけ俺もあんまり暇じゃ無いわけ。てかさ、折角シャバに出たってのに、さっそくやることが引きこもってコレかよ」
コレ、と指差したそこには、二人にとって因縁とも思い出とも呼べるシルエットが静かに横たわっていた。
「しっかし何だ?今日は随分と上がやかましくないか?」
入念な防音素材の内包された天井から実際に音がする訳では無いが、振動と微かに舞い散るホコリにマージンは手をとめて眉をしかめる。
「んん、そうだな?デザートランナーの季節移動の時期だったか?」
しかしたかだかそれしきで崩れる部屋でもない。
ユートピアの大号令のもとマシン系モンスターの集結する足音であるとはつゆ知らず、二人は作業に戻る。
「つべこべ言わず手を動かせ!フツキ君にも逃げられてしまってな。遊んでくれる相手はもう、お前しかおらんのだ」
ゴブル砂漠の地下、懐かしの研究者時代のヤサに戻ったフィズルは、長らく右拳のみであった巨人を本来の姿に戻すべく工具を振るっていた。
「…それ言ってて悲しくね?」
ぼやきつつもまた、マージンは指示通りの部品をスクラップの山から掘り起こしフィズルに手渡す。
何だかんだ、フィズルを構ってやらずにはいられないマージンなのであった。
「…作戦の決行まであまり時間が無いが」
立ち直ったココソーに協力を取り付けた旨をケラウノスがおきょうに無線連絡した後、向かうべきところがあるとココソーに率いられ、作戦の集結場所には遠からず近からずといった、ゴブル砂漠の一画を訪れていた。
「そう、それだ。私の世界では、ドルセリオン奪還作戦は一つの大きな節目となった。あの過去を…いや、未来を覆すためには、とびっきりの隠し玉が必要だ」メンバーに欠員を出す結末となった事までは、伝える必要はあるまい。
「この辺に…あった。あったぞ」
地下坑道へと続く階段を下り、薄暗い通路を突き当りまで進み、ココソーはつい最近も動かした形跡の見て取れる鉄の扉を勢いよく開く。
「見つけたぞ!ええと…イーサンとマジオ…じゃなくて…えっと………お前達は誰だ!?」
イーサンとマジオ。
かろうじてココソーの世界と同じルックスで助かったが、一流冒険者と犯罪者の境目で踊る義兄弟のこの世界における名前までは、当然知る由もなかった。
「…姐御、それじゃすっかりアホの子だ…」
「よもや、フタバが突っ込みにまわる日が来るとは…」
突然の来訪者に、何事か、ときょとんとするフィズルとマージンを置き去りに、地を取り戻したココソーの天然ぶりに頭を抱えるフタバであった。
このままでは埒が明かないと、ケラウノスが間に入る。
「隣のプクリポの御仁は知らないが、背の高い男の事は知っている。彼はマージン。ハクト少年の父親だ」ハクトとフタバは、大地の箱舟の一件で袖振りあった縁があった。
それ以後も、足繁くフタバの兄であるハクギンブレイブのショーに顔を見せ、惜しみない賛辞を送る彼の事は、フタバにとっても好ましい。
「おお、ではコイツがハクトのろくでもない親父か。初めまして!」
フタバは大きな声で挨拶し、それはそれは規律正しくおじぎをする。
「失礼か礼儀正しいかどちらかに寄せてくんないかな!?」
「…フタバ、ちなみに初対面ではない」
ケラウノスの言葉は、初詣の一件から幾許か時を経て尚、マージンに対する怒気をはらんでいた。
「…んっ?そうか?」
何時だっけとフタバは首を傾げる。
「あれは初詣の…」
「シャラップ!過去は忘れてありのままの俺を見てください!ささ、ご用件をどうぞ!!」
快速で取り繕うマージンの姿に、また何かやらかしたんだなと呆れの込もったジト目を浮かべつつ、ココソーは状況の説明に入るのだった。
続く