「ほれ見たことか!コクピットが砂まみれじゃねえか!!」
ビッグFの地下からの搬出経路は、およそゴブル砂漠のど真ん中に位置する昇降エレベーター。
地上へ繋がる隔壁はスライド式で、当然の帰結として仮面ボンバーことマージンは隔壁が開くに伴い流れ込んだ大量の砂を浴びることとなった。
「俺にはこのスーツがあるが、そっちはどうする?当然だけど2着は用意してないぞ?」
砂を払いながら、ビッグFの足元に立つココソーに声をかけた。
生身で風を受けるには、ビッグFの肩は居心地が悪過ぎる。
「私には、とっておきのコレがある」
まくり開けたジャケットの下から、魔装ベルトが姿を見せる。
それは、おきょうからフタバの手を介して届けられた、とっておきの切り札。
「…おかしな話だが、何だか、懐かしい気分だな」
いわゆる完成品となる前の試作段階の魔装ベルト、そのほとんどが損壊するか次世代型の改造ベースとなり失われた中で、唯一残存する物がある。
かつてラギ雪原にてシドーレオを打ち倒した後、再び眠りについていたそのベルトが今、ココソーの腰に巻かれていた。
細部のデザインは異なるものの、バックルのスライムフェイスの側面に刻まれたIDナンバーはココソーにも見覚えがあった。
戦いの記憶を思い出し、愛おしむようにそっと撫ぜる。
勿論これは、ココソーが過去に身にまとったベルトではない。
しかし確かに同じ刻印を持つベルトと共に、セ~クスィ~同様、ココソーもまた戦場を駆け抜けてきたのだ。
その懐かしい記憶が、既に準備万端燃え上がるココソーの心のエンジンにさらなる火をくべる。
「さぁて、こればっかりは一か八かだ…」
魔装を展開する前に、ケルビンに投げ寄越されたガントレットを装着する。
寸分違わず再現したと、奴は言った。
敵ながらドクトルKもといケルビンの技術に間違いはない。
それならば。
「ドルセリン!チャージ!!魔装、展開!」
洗練された完成型と異なり、脚部ガードはフレームや動力伝達菅が露出したメカニカルなデザインながら、この魔装は僅かな期間とはいえ正式導入されていたほどに完成度が高い。
「…良し」
そして肝心のガントレットだが、ケルビンによる精巧な贋作とはいえ、やはり博士の設計したものである。おきょうの作った魔装とガントレットは完全にリンクし、スカウター横のスイッチを弾けば装甲側面がスライド、アオックブレイブの魔装具と同じ片手剣の握り部分のみがジャキンと音をたてて飛び出す。
鞘から抜刀するように引き抜けば、アカックブレイブを象徴するかのような鮮赤の粒子の刃が形成された。「なるほどその姿、確かにアカックブレイブだ。しかし、あんたはハンマーじゃないんだな」
「いや、本来、私の魔装具もハンマーだぞ。これはとっておきというやつだ」
動作は確認した。
コイツの出番は、まだ先だ。
ココソーは腕に馴染ませるかのように2、3度軽く振ったのち、フォトンサーベルを納刀する。
「さぁて、時間も無いんだろ?そろそろ行こうか」
「ああ!」
ココソーが一飛びでビッグFの肩に飛び乗ったのを確認し、マージンは悪鬼ひしめくガタラ原野へ向け、ビッグFを進ませるのであった。
「アカックブレイブは必ず来る!それまで、何としても持ち堪えるぞ!!」
その頃、山を割り開きスーパードルセリオンがその異様を現すと同時、ガタラへ向けて進軍を開始したユートピアの兵団を相手に、超駆動戦隊ドルブレイブは既に戦闘を開始していた。
「ん~っ、リーダーがそれ言うと何だか紛らわしいねぇ」
セ~クスィ~の転じたアカックブレイブが振り下ろしたハンマーにより浮いたメカバーンの群れを、スパイク付のタイヤが蹂躙する。
ハンマーと負けず劣らずの重量のタイヤはチェーンで結ばれ、クロックブレイブの手により縦横無尽に敵を凪ぐ。
「無駄話出来る程度に余裕のあるうちには来てほしいかな」
「賛成です。でも、黙って戦う先輩の姿なんて、見た記憶ないですけど?」
ブーメランを刀のように振るい、距離を詰めてきたヘルカッチャを、アオックブレイブのフォトンサーベルとともに、分厚い装甲に加えて角のような刀による防御諸共X字に切り結ぶ。
力を込めた斬撃は衝撃波を伴い、並ぶ二体をも切り裂いてスクラップと化した。
「ふん。アカックブレイブが来る前に、片付けてしまっても構わんのだろう?」
アカックブレイブのハンマーのスイングを踏み台に、超高高度への跳躍からの流星の如き飛び蹴りが十数体のメタルハンターを吹飛ばす。
しかし居並ぶマシン系モンスターの数は一向に減る様子がない。
そして姿は見せるも未だ不動のスーパードルセリオンの存在も不気味である。
兎にも角にも、超駆動戦隊ドルブレイブ、過去最大規模の戦闘の火蓋は、こうして切って落とされたのであった。
続く