※占い師職業クエストをベースとしており、ネタバレを含みます。ご注意、ご了承ください※
「だいたい分かったよ!さしあたって、そうだね、村長さんの家って、何処かな?」
行方のしれない術師を探す手がかりは、実はもう酒場で手に入れている。
「あの、おっきな赤い屋根のおうちだよ」
「あ~、うん、だよね。やっぱりね」
酒場でかすかに拾った、『村長のところで』という言葉。
事態の根幹に関わると思われる屋敷、その屋根の色もまた、お誂え向きにインパスの反応と綺麗に揃っている。
逃げ回るのと違い、目的地さえはっきりしていれば、見知らぬ土地とはいえ如何様にもなる。
着いていくと言い張る少女を何とか説得したのち、ユクを探してさまよい歩く村人たちの目を掻い潜って、目的の館に辿り着く。
(鍵は…開いてる…)
ゆっくりとドアノブを回し、わずかに開けた扉の隙間から潜り込む。
村長の屋敷といっても、村の規模が規模である。
部屋の数もけして多くはなく、探し物はすぐに見つかった。
村長の執務用と思われる机の上、視覚だけでも滑らかさの伝わる紫の布地で織られた座布団に鎮座する、白く濁った球体。
遠く離れた屋外から、実物を見ずにしてはっきりとインパスの結果を赤く染めたのは、このピュアパールに間違いない。
「どうしよう?とりあえず………割る?」
鞘に納めたままの刀を両手で握り、スイカ割りのように恐る恐る忍び寄る。
刀を振り上げ、いざ、というその瞬間。
『それはちょっと、困っちゃうわねぇ』
「うわわわっ!?」
突如響いた蠱惑的な声の出処を探る間もなく、ピュアパールから吹き出した蜘蛛の巣に視界を覆われてしまう。
「ここは…」
霧がゆっくりと晴れるように視界が戻るとそこは、宙に無数の瓦礫が漂う、紫雲に閉ざされた薄暗い異空間。
そこに浮かぶ決闘のステージのような巨大な円形の石板の上に、ユクは立っていた。
「予期せぬお客様ね」
「ッ!ファランクスっ!!」
不意に背後から響いた声、咄嗟にタロットに魔力を込めた。
盾を持たぬユクだが、代わりに4X4のフォーメーションで規則正しく宙に並んだタロットカードが、ユクの背に迫った鉄のような何かを弾く。
「うわっ!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!!」振り向いて確認した先には、おぞましい相手が立っていた。
小柄な女性、年の頃はユクの倍ほどであろうか。
鈍く輝くモノクルが理知的なイメージを与えるが、目立って特別な所のない、何処にでも居そうな佇まいである。
しかし、ほんの少し物憂げな表情の相手の背中からは、針のような毛の生えた、巨大な蜘蛛の脚が4本飛び出していた。
先程、ユクのタロットカードと衝突したのは、その脚先に飛び出す赤茶けた巨大な爪だろう。
向かいあったのを皮切りとばかりに、右から左から、時には下から上から、豪雨のように降り注ぐ爪撃を、抜いた刀とタロットでさばいていく。
脚の本数では差をつけられようと、こちらには20枚のタロットが味方してくれている。
加えて、ユクもけして油断したわけではない。
だがしかし、対峙する相手、蜘蛛女もまた、とびきりの占術師であることを、そして、アルカナ・セラピアという太古の秘術を自ら復元させたほどの腕前とまでは、それこそ占いでもしない限り知りようがない話であった。
続く