※占い師職業クエストをベースとしており、ネタバレを含みます。ご注意、ご了承ください※
何度目かの衝突、これまで脚を交差して防いでいた『死神』のタロットの爆発に合わせて、蜘蛛女もまた、迎え受けるように懐から引いた『死神』を重ねた。
「えっ!?」
衝突により弾け拡がった紫の閃光が視界を焼く。
霞がかった視界の中で、それでもはっきりと光を放つ一枚のタロットが自身へかざされると同時に、ユクの意識は薄れていくのだった。
ドサリと力を失い倒れたその身体を、蜘蛛女は愛おしむように拾い上げる。
蜘蛛女にとってユクもまた敵ではなく、救うべき迷い子の一人なのだ。
ユクの額に近付きさらに輝きを増すセラピアカードを通して、これまでのユクの記憶が流れ込む。
類稀なるインパスの才能を持ちながら、タロット占いに固執する占い師。
インパスの色目と異なるタロット占いの結果を是とする為に、時に戦い、時に傷つき、時に散財し、その様子は蜘蛛女にとってはお世辞にも幸せとは程遠く見えた。
「…可哀想に。もう当たらない占い、得られなかった才能に苦しむ必要は無いのよ」
そこに嘘偽りは無く、確かな慈愛に満ちた笑みを浮かべ、蜘蛛女は節足で抱き抱えた虚ろな瞳のユクの頬を撫でる。
眠る赤子を慈しむようなその言葉はしかし、ユクの心に僅かなさざ波を起こすのであった。
そうだ。
女将さんの言葉にも、引っ掛かりを覚えていた。
可哀想?
苦しむ?
天賦の才の有る無しが?
占いを頼ることが?
自分の現状や将来を思い悩むことが?
タロットの才能が無いだなんて、とってもとっても大きなお世話。
インパスと結果がずれることだって多々、じゃなくて時々、でもなくてまあ極稀にあるけれど、それを当たったことにするのも含めて全部、ユクの自慢の占いなのだ。
そして誰一人として、ユクのお客さんの中に、可哀想な人なんていない。
思い悩む苦しみは、確かに暗く冷たいものだろう。
だけど、けして不要なものじゃない。
いつかの笑顔へはずみをつけるために、必要なものなんだ。
そしてほんの少しでも、暗く冷たい苦しみというトンネルを抜けられるように、占いがある。
共に歩み、笑顔を勝ち取るために、ユクがいる!
ユクが占う!!
それを可哀想だなんて、冗談じゃない。
「…冗談じゃ、ない!!」
ぱちりとユクの目が開く。
もとより力などこもってはいなかった蜘蛛脚の抱擁から転がるように飛び出した。
続く