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あれから、一週間。
「………あれぇ?この辺だと思うんだけどなぁ…う~ん………お!?」
たぬきちに庇ってもらったとはいえ、まだ身体のあちこちに包帯を残したままのじにーは1人、カミハルムイ近郊の山の中を歩いていた。
「うわ…ボロッボロだなぁ…あ、ごめん」
やがて目的の場所、こんな所で誰が聞いている訳でもないが、主にとっては思い出の家であろう廃屋を思わず貶してしまった事をじにーは素直に詫びる。
「…お邪魔しま~す」
朽ちて倒れた引き戸をまたぎ、中へと入る。
ぐるりと見回し、ふと、大黒柱に刻まれた幾筋もの背丈の印を見つけ、じにーは穏やかに微笑んだ。
ここはかつて、アカツキとたぬきちが暮らした家。
夜行石を通して垣間見たアカツキの記憶を頼りに、じにーはようやくここへと辿り着いた。
「予想以上だな、こりゃ」
ある程度、覚悟はしていたのだが、それにつけても荒れ具合はかなりのものだ。
もともと今日一日で何とかなるとは思っていない。
幸いなことにすぐ裏手には小川も流れている。
台所と思しき部屋で見つけたタライで川の水を汲み、持参した雑巾で床の間をまあ許容できるところまで磨き上げるのに、小一時間は要しただろうか。
整ったそこへ、たぬきちの遺した仕込み杖と、アカツキの遺した錆びた小太刀を横たえる。
仕込み杖の中の刃は折れたままだが、もうたぬきちは眠りについたのだ、武器は必要ないだろう。
切っ先の側は、じにーのガテリアの宝剣の新たな刀身として、今まさにリーネの手配の鍛冶師のもとで生まれ変わろうとしている。
『共に旅をしたい』
後悔はないと口では言っておきながら、じにーが拾った刑部の刃には、痩せ我慢無い正直な想いが遺されていたのだ。
その想いは形を変え、きっと果たされることだろう。
仏壇、というわけでもないが、なんとはなしに、床の間に向かい座して手を合わせる。
「ほんっと、中途半端でごめん。片付けの続き、また来るからね」
がっつりスケジュールをとりたかったのだが、なかなかそうもいかない。
残念ながら今日はタイムアップ、鞄を背負い、敷居を跨いだ、その時。
ーーーいってらっしゃい
はっと、聞こえるはずのない声に振り返った先、穏やかに微笑むたぬきちと、こちらに手を振るまだ幼いアカツキの姿を幻視する。
「…やっぱり、あの時、助けてくれたのは貴女だったのね」
夜行石に触れた時、記憶の奔流から救い出してくれた少女が、そこに居た。
しかし、じにーがぶわっと溢れた涙を拳で乱暴に拭えば、もうそこに2人の姿はない。
「行ってきます!」
それでもじにーは、くしゃくしゃの笑顔を返すのであった。
リーネの調べによると、どうやら夜行石は、あの一つだけではないらしい。
例え何年、何十年とかかろうと、必ず全て残らず打ち砕く。
決意を新たに、歩みを進めるじにーであった。
続く