プリザーブドフラワーとて、永遠ではない。
保存環境により1年から10年と、その寿命は大きく変動する。
まずもって大敵なのは直射日光と高温多湿。
ウェナ諸島のような水辺が近く多湿な地域、エルトナ大陸のような四季の気候の変化を避け、じにーはこのグレンの地を飾る場所に選んだ。
「…すっご」
室内は建物の原型を覆い隠す程に加工された花々でびっしりと彩られている。
オスシと違い今回が初の同行、じにーの別宅を訪れるのも当然ながら初となるいなりはその美しさに圧倒された。
「額に飾ったり、ガラスの箱にでも入れちゃえば、もっと長持ちさせてあげられるんだけどね…」
生花のような柔らかさを持つが故、ホコリが着いてしまうと除去が困難である。
バギを込めた魔法玉による空調システムを完備するとはいえ、ホコリをゼロにはできない。
飾る場所の問題もさることながら、こうして定期的に入れ替えを行う必要が出る一因となっていた。
「…でもそんなの、アイツは嫌いだろうし」
じにーは会うたびわざとつっけんどんな態度をとる、天邪鬼な友人を思い浮かべた。
彼女は、一処に縛られるのをよしとする性格ではないのだ。
イベントに出演する度に贈られる花束も、きっとイベントが終わったらすぐにでも捨ててくれとばかりに思っていなければ、このように大量に贈って来ることはあるまい。
だから、こうして僅かでも彼女からの花々を傍に縛り付けるのは、自分の我が儘でしかない。
故に、せめて額やケースに閉じ込めるのだけは、遠慮しているのだ。
「アイツ…?」
「あ、いや…」
持ち込んだものも持ち帰ったものも、そして館の中を見回してみても、様々な花を擁するとはいえ、どれもスイートピーを軸にそれを引き立てるようなチョイスとなっていることにいなりは気がつく。
「どういう基準で保存する花を選んでるのかと思ったら、そういうことねぇ」
「いや!?そんなんじゃないからね!?」
「………二人とも、暴れるとホコリが立ちますよ」
ニヨニヨと笑みを浮かべるいなりを追い回すじにーの様子を、やれやれと眺めるオスシ。
昼下がりの陽射しに誘い出された花の香りが、3人を優しく包むのであたった。
続く