これがいわゆる走馬灯というものであるなどと、サンプル587には知る由もない。
光の奔流に焼かれて体組織の大半を失い、内からの圧力に引き千切られて再結合もままならない中でサンプル587の脳裏によぎるのは、遠い日に交わしたマスタージェルミとの約束だった。
「幸せに、なりなさい」
最期の言葉を賜ったその日から、サンプル587を含む、ジェルミの子たる魔法生物達の永い旅路は始まったのだ。
我々の幸せとは、マスタージェルミと共にあること。活動を停止し、失われてしまった彼女を、蘇らせる。その為には、完全なる『進化の秘法』が必要である。故に、仲間たちは変質を免れぬと知りながら、レイダメテスの堕とし仔に身をやつし、悲劇から生まれる『乙女のたましい』を集めたのだ。
あとは『おうごんのうでわ』だけ。
依代を失い、マドハンドともバブルスライムともとれない姿でメタルソウラへにじり寄る。
見つけた。
ついに見つけたのだ。
おうごんのうでわの材料となるグランドラゴーンの脊椎は、そこにある。
身体の大半を失ったとて、まだ、メタルソウラを覆えるだけの質量は残されている。
「それはまあ、あれだけ間近だったのだ。そろそろ気付くであろうな。勿論、想定済みだ」
ケルビンはサンプル587に飲み込まれてしまったメタルソウラを何ら動揺する事なく見つめる。
敵はメタルソウラから発露した地脈エネルギーを感じ取ったはずだ。
サンプル587のこの行動は反撃が目的ではなく、本懐を果たし、また逃亡手段として新たな依代を確保する為だろう。
脳、があるのかは知らないが、追い詰められると判断を誤るのは人であれ5種族であれモンスターであれ変わらない。
メタルソウラはケルビンの作、キラーマシン2のような操りやすい軟弱な回路を積んではいないのだ。
「メタルソウラ、スーパーノヴァ放射」
「アイ、マスター」
メタルソウラの体内の地脈エネルギーを破壊エネルギーに置換し自らを中心に放出する必殺技が発動し、サンプル587は呆気なく吹き飛ばされる。
「よくもやってくれたわね!」
何よりも、ミネアを手に掛けようとしたことが許せない。
怒りに任せて、マーニャはかがやくいきを、メタルソウラに弾かれこちらへ舞い来るサンプル587へと解き放つ。
(…ア…ァ………マス……ジェ…ミ…サマ………)
サンプル587は目的を果たせなかった不甲斐無さを詫びながら、極低温の吐息にさらされその最後の一滴まで塵と果てるのであった。
続く