「うわぁ、素敵!故郷の山を思い出します!!」
祈りを捧げるように手を組み合わせ、め~たの心は弾む。
しかしながら、『貴女の故郷どんなやねん!!!』と、店主を含めその場の皆がツッコミを必死に我慢したことは言うまでもない。
大量のパウダーがスープを吸い、もはや汁なし麺の様相を呈している。
いただきま~すと礼儀正しく手を合わせ、リフトした麺にはびっしりと唐辛子がまとわりついて、それはもはや食べるヤスリである。
「………!!」
しかしながら、ティードが隣の客に対し驚愕を覚えたのは他でもない、流石に麺をすするに邪魔となるフェイスベールを外しため~たのその肌色である。
アメジストの瞳を囲む結膜の黒とよく馴染む濃紺に近い肌の色、それらはアストルティアの仇敵、魔族を意味する特徴であった。
幸い、め~たが腰掛けるは角席で、麺をすする為うつむき加減な姿勢と、帽子から下がり耳後ろからうなじまでをぐるりと覆うケープでそれに気付いているのはティードただ1人。
そして、ここまでのめ~たの振る舞い、一介の激辛料理を愛する者としてその席に座る姿を見れば、如何に魔族とて捨て置くに充分である。
しかしながら、友は違う。
休日であれ、アストルティアの護り手たるアカックブレイブであれば、差し当たって職務質問の一つも繰り出してしまうのではなかろうか。
そうすれば一触即発もありえる。
「………良かった」
しかしセ~クスィ~の方を返り見て、ティードはほっと胸を撫で下ろす。
顔面がすっかりびっくりトマトと化している友に、とてもそんな余裕はなさそうだ。
亀の歩みとはいえ、先に提供をうけ、加えて大盛りと並盛りの差もあれば、苦戦するセ~クスィ~をしても、め~たよりは早く食べ終わる。
ティードに急かされるようにセ~クスィ~は店をあとにして、かくして不要な争いは回避されたのであった。
「う~ん、ピリ辛で美味し~!!!」
ピリ辛?そんな馬鹿な………
店主が自信を無くさんばかりの感想を交えながら、め~たはほぼ固形のスープまできっちりと完飲した。
「ごちそうさまでした!」
辛さの裏にもしっかりと各種素材の旨味が感じられ、スルスルいける最高の一杯に、あらためて手を合わせ一礼。
流石に汗ばんだ頭皮に風を通そうとめ~たが帽子を持ち上げた、その刹那であった。
「ちょっと…!!」
押し戻すように帽子を再びがぽんとめ~たの頭に被せたのは、コンシェルジュと冒険者、二足のわらじで生きるグレースである。
彼女もまた、め~たの正体を知りながらも、その気質を知る故、同じアストルティアの民として変わらず接する1人であった。
たまたま開いていた店の扉越しにめ~たの姿を見留め、持ち上がっていく帽子の様子に青褪めて駆け寄り、すんでのところで何とか間に合った。
自らはオーガである為、角が生えているのは当たり前だ。
しかし、仮初にもウェディを装うめ~たは違う。
山羊のそれにも似た独特の角を見られては、あわや正体がバレてしまう。
「そんなに大慌てで…どうしたの?」
慌ただしく支払いを済ませ往来へ出たところで呑気な言葉が飛び出した。
「………あんたって子はまったく」
危うく身バレするところであったなど思い至らず、マイペースなめ~たに肩を落とす。
しかしまあ、今日はがみがみと言うまい。
年に一度の、め~たの誕生日なのだから。
今日のお祝いに、め~たの相棒兼保護者であるしにがみのきし、スメシから預かったとびきりの刺繍を施したハンカチもある。
ちょうど辛い料理を食べたあとのようだし、ちょいとそこらで甘いものでも摘みながら渡すとしようか。
自身の誕生日すら意識の外で、訳も分からずぽかんとするめ~たの手を引き、グレースは店を見繕うべく歩みだすのであった。
~HappyBirthday~