「君は…久しいな。仕事中の私と何度も行き合うというのはあまり良いことではないが…とにかく無事で良かった」
城内で道を塞がれ途方にくれていたユク達を救ったのは、通報がケルビンの手によるものとは知る由もないアカックブレイブである。
かつてグランスパにて、インパスの赤き反応を示した怪しい木箱にタロットを見舞った際に、中に隠れていた不審者を変更していった警備のお姉さんが、まさかアストルティアの護り手と名高い超駆動戦隊ドルブレイブのアカックブレイブその人であったとは、まったく世間は狭いものだ。
気絶したままのマーニャを背負っているとは思えぬ動きで進むアカックブレイブに先導され、やっと外へと辿り着いたミネアとユクに、背後の古城、その尖塔の一つが消え失せていることに気づく余裕などあるはずもない。
駆け付けていたドルブレイブの救護用トレーラーに揺られてもとの酒場まで帰り着き、女将さんのご厚意で再びお世話になって、はや一週間が経った。
マーニャの身体もすっかり癒え、姉妹とユクは明日の朝、またそれぞれの旅へと戻る。
3人はお別れの前にテーブルを囲んでいた。
「………冒険のさなかの出会いや出来事を、不意に、偶然ではなく必然と感じることがあります。今回、ユクさんと出会えたのは、『導かれた』結果だったのかもしれません」
「いやぁユクなんて、終始あのちんちくりんに踏みつけられてるうちに全部終わってただけで………」
ケルビンの無礼な振る舞い、思い返してまた腹が立ってきて、ユクはグラスの水をあおる。
浮かべられたレモンスライスから滲み出た酸味が、すっと気持ちを落ち着かせてくれた。
「他もかじってはいますが、私は水晶占いが専門、私一人ではあの時、姉さんにあれだけの加護を与えることは出来なかった。姉さんがパルプンテに耐えれたのは、ユクさんのおかげです。本当にありがとうございます」
ミネアは、深々と頭を下げる。
そして、マーニャが助かった、いや、マーニャの運命が変わったのは、ユクによるタロットの効果だけではないと、ミネアは踏んでいる。
自慢ではないが、自分の水晶占いの結果は、外れない。
いや、あの時までは、外れたことが無かった。
イレギュラーがあったとすれば、ユクの存在である。かいつまんで聞いたインパスの異能、そしてそれだけではない、きっとユクは他者の運命を………いや、無粋な憶測はよそう。
姉が無事だった。
今はただ、それだけで充分だ。
「いや~そこはさ、アタシの博打運もあるんじゃないかしら?」
「姉さんの博打運に賭けてたら結果なんて目に見えてるでしょ。馬鹿言わないで」
「ねぇユク~、妹がいじめるよ~っ!」
しなだれかかるマーニャの様子に、ユクは頬を緩める。
助ける事ができて、本当に良かった。
柔らかな胸肉を使い、鮮やかな橙に染まるタンドリーチキンに、いつものビリヤニのピラミッド、そのままで良し、チキンやビリヤニを沈めてよしの香り高いスープカレー。
ユクとミネアは酸味が爽やかなラッシーと、マーニャは一杯までと言われながらも既に三杯目のジョッキで麦酒をあけている。
姉妹とユクの歓談の声は、賑やかな酒場であってもなお明るく、星の満ちる空に響き続けるのであった。
続く