「………フタバは、大丈夫なのか?」
ガラスの向こう、カプセル状のメンテナンスドックに横たわるフタバをセ~クスィ~はじっと見つめた。
「システム一新に伴う再起動プロセス中、といったところかしら」
顔半分をすっぽり覆うゴーグルを外すと、回転椅子をくるりと動かしおきょうはセ~クスィ~に向き直る。
「…?」
まあ、聞き慣れない横文字だらけで、セ~クスィ~がきょとんとするだろうというのは想定のうちだ。
「とりあえずは、ケルビンのレポートにあった懸念が一つ、解決したということよ」
もとより先ほどの訪問は、フタバをドルブレイブ基地に連れて行くための迎えであった。
数時間ほど前のこと、ケルビンとハクギンブレイブの目論見通り、レポートを受け取ったおきょうはそこに書かれた内容をセ~クスィ~にも詳らかにするべく、基地内のラボへと呼び出した。
「もともと、フタバちゃんが地脈エネルギーに頼らず、ハクギンブレイブと同じように食品の経口摂取とドルセリンで活動できるよう、私とケラウノスちゃんが色々研究開発を進めていたのは知っているわね?」
「ああ。地脈エネルギーのこともあるが、ゴルドスパインがどんな危険性を秘めているか分からんからな」アレが伝説級の魔物由来であることが分かっている以上、対策は必要である。
「本当はゆっくりと、出来る限りフタバちゃんの負担が少ないように事を運ぶつもりだった。だけど最近、そう悠長なことを言っていられない事情が分かってきたの」
「…?これはっ…!」
何度読み返したのか、すっかり折れ目やマーカーの跡にまみれたボロボロの紙の束を手渡されたセ~クスィ~は、その独特な文体から作成者が誰かを感じ取り、おきょうを鋭く睨む。
「………悔しいけれど、彼の頭脳は本物よ。たとえ何かしらの罠が潜むとしても、このレポートには見過ごせない内容が書かれていた」
『レイダメテスの堕とし仔とメモリーキューブの危険性について』と題されたそれに、セ~クスィ~は目を走らせる。
そこには、解析不能でやむを得ず捨て置いていたハクギンブレイブ体内の『箱』について、その仔細がまとめられていた。
嘘と断じることは簡単だ。
しかし、その製造に錬金術が絡んでいるなど、不確かなれどもおきょうの見立てと一致する内容が散見され、レポートの信憑性を裏付けている。
それに加え、セ~クスィ~もよく知る情報が、レポートには続けて記載されていた。
「『レイダメテスの堕とし仔』…」
古の錬金術師ジェルミにより生み出された魔法生物、ないしは機械装置を礎とし、レイダメテスの残骸と混ぜ合わせることで生み出されたモンスター達。
その名称、由縁はこれまで知らずとも、ユニークモンスターの報告は常にチェックしており、何よりも、ユートピアの脅威は身を持って知っている。
そして、ケルビンによれば、ハクギンブレイブの体内のメモリーキューブもジェルミの作であり、そこに内包された冒険者、『レオナルド』の記録こそが、今ハクギンブレイブに宿る自我を形成する礎となっているという。
「…モード…レオナルド…」
大地の箱舟にてあれが発現したことは、裏を返せば、メモリーキューブに眠る全てのデータがハクギンブレイブ、SBー03の身体とリンクし、『レイダメテスの堕とし仔』に連なるものとして覚醒したことを意味している。
はらりとレポートの狭間から舞い落ちた写真には、ガタラ原野のはずれにて、ベータとハクギンブレイブが密談する様子が隠し撮られていた。
続く