「こ、こいつは…少し見ないうちに随分とご立派になられてますなー!?というか…ちょっとばかし…高尚なご趣味をお持ちのようで…りゅーへー、あんまり見ちゃダメですぞ」
黄金鶏神社にて嫌と言うほど拝んだ鋼鉄の人馬。
しかし、2周りはサイズの変わった巨躯に、弓を外されプレーンになった4本の腕は自らの胴を抱くように畳まれ、その上からぐるぐると鎖に縛られている。
「…痛く…ないのですかなー…」
一番の極めつけが、携える両手杖である。
3対6枚の漆黒の翼を広げた意匠。
拘束された腕で握れる筈もなく、両手杖はサージタウスの脊髄から胸にかけてを深々と貫いている。
機械に対し、まして敵であるのに無用の心配であるが、らぐっちょの率直な感想には無理もない。
「…馬鹿言ってる場合か?こいつの狙いは私だろう。しんりゅうの娘を連れて何処へでも逃げるがいい」
「そういうわけには!というか何で狙われて?姉妹喧嘩ですかな?…ってどひーーー!?」
うだうだしている間に、アルファによるサージタウスのカスタム機、サージタウス・マギアの周囲に6つの火球が生成され、らぐっちょ目掛けて降り注ぐ。
「なんとぉー!」
自分の背後にはりゅーへーもいる。
カザミドリをバサリと羽根開き、桃色の旋風を巻き起こしてからくも軌道を逸らした。
チャンネーのスカートを翻らせる為に磨いた腕前は健在だ。
「急に危ないじゃないですかーっ!」
りゅーへーが2本の角から怒りの雷撃を放つも、透明な壁に阻まれるように雷撃はサージタウス・マギアの眼前で捻じ曲がり、四方八方へ霧散する。
「のおわっ!?」
そのうちの1本はらぐっちょの足元に命中し、草の燃ゆる香ばしい薫りに燻された。
「…い、今のはマホカンタ?何とも分が悪いですぞ…」
アブソリュート霊の無き今、自分はヒッサァのような絶大な物理火力がなく搦め手中心、もとよりあくまで庇護対象であり戦力と数えてはいないがりゅーへーの呪文も通用しないとくれば、厄介極まりない。
「りゅーへー、隠れているのですぞ!それと、ベーやんのことは任せましたぞ!!」
「はい!」
「…お、おい!私は…というか、なんだべーやんて!」
抗議する間に、ベータはりゅーへーにぐいぐいと押しやられる。
しんりゅうとはいえまだ少女の力、抗うことは出来ただろう。
しかし、寄るべき河岸の定まらぬ今のベータはそれに甘んじた。
『驚異判定更新…眼前ノ………プクリポ?…ヲ優先排除対象ト判定』
「ん?何か今、イントネーションおかしくなかったですかな?…って、またもやどひーーー!?」
サージタウス・マギアがいななくように前脚を高く蹴り上げてから大きく開き地を踏みしめれば、両手杖から炎熱のエネルギーが噴き上がり、太陽の如き巨大な火球が生成される。
やがて臨界を迎えたエネルギー、メラガイアーはらぐっちょ目掛けて放たれたが、彼我の中間点あたり、掻き乱されるように不自然な軌道を描き、大きく逸れてらぐっちょからはおよそ離れた地面を焼いた。
「…ほ、ほら、らぐっちょさまは凄いんですから」
りゅーへーは胸を張ってみせるが、数秒前まではらぐっちょが焼き鳥になると信じて疑っておらず、サージタウス・マギアもまた、間抜けにも首を傾け、一つ目をぐるぐると回転させている。
何が起こったのか、理解しているのはこの場においてらぐっちょただ一人なのであった。
続く