アルファの狙う槍使い、2機生産されたサージタウス・グラディアートルの残る1機の目標は、当然、ハクギンブレイブこと行方のしれぬメモリーキューブである。
「フタバ、しっかり掴まっていろよ!」
荒野を失踪するドルブレイド。
ライトの残像の如く、風に棚引く赤髪が軌跡をなぞる。
『捕捉…ハクギンブレイブ…捕捉…』
「だから俺は兄上じゃないってば!もう、しつこい!!」
セ~クスィ~とフタバがタンデムするドルバイク、サージタウス・グラディアートルは、その後ろをダカダカと土煙を巻き上げ追う。
その速度は、おきょう博士のチューニングしたドルブレイドに勝るとも劣らない。
金剛石の追加装甲の代わりに本体を小型軽量化することで、影響を最小限に留めているのだ。
セ~クスィ~が巧みなハンドル捌きで回避した大きな岩くれを、すれ違いざまサージタウス・グラディアートルは拳で打ち砕く。
セ~クスィ~はサイドミラーでその様を確認し、矢のごとく飛来する数多の礫がフタバの背を貫かんとした刹那、フロントブレーキで後輪を跳ね上げ、間一髪、ドルブレイドのフレームを盾とする。
しかし衝撃は殺しきれず、浮き上がって2度地を弾みタイヤが大地を噛めぬ内に、サージタウス・グラディアートルは更に距離を詰めてきた。
ぶんと振るわれる鉄拳をドルブレイドを傾け回避する。
不安定な体勢でもアクセルは緩めず、再び距離をとることに成功した。
ドルブレイドを停車するのは論外、ドルセリン管をベルトに挿し込む隙ですら命取りになりかねず、サージタウス・グラディアートルが落着してきて以来、この追走劇は続いている。
「クソッ!魔装が使えれば、こんなヤツ!!」
フタバは今もたえず力を引き出そうと奮闘するも、切り離されてしまったかのように、システムの応答はない。
そして何より気がかりなことがもう一つ。
『ハクギンブレイブ…メモリーキューブ…破壊…破壊…』
何故だかこの敵は、自分を兄上と誤認して襲いかかってきているのだ。
まあその、このアストルティアにたった2人きりの兄妹なのだから、間違えるのもそれは止むなしだろうと何故だか誇らしくすらあるのだが、メモリーキューブなる聞き馴染みない言葉も引っかかる。
自分でもメンテナンスが出来るようにと、ケラウノスから嫌々ながらも叩き込まれた自身の構成パーツ内には、たぶん、きっと、おそらく無かったはずだ。
「メモリーキューブが狙い…そうか、今のフタバは…」
「姐御!何か知っているのか!?教えてくれ!!」
「そ、それは…!だな…ええと…あ~…その…ええと…き………キ…」
特に隠すつもりはなく、単純に機会を逸していただけなのだが、改めて言葉にしようとしたものの、セ~クスィ~は言い淀む。
「き?」
「フタバ、君とハクギンブレイブはあの夜…その、キ、キ、キス、をだな…その…ああいや、キスというのは、魚に喜ぶと書くスズキ目スズキ亜目キス科、脂が少ないのが特徴の上品な白身で、塩焼きや天ぷら、さっと炙って握りにすると美味な魚のことではなく…ああ、天丼や蒲焼き丼も有りだな。しかしその場合、下手をすると掻き消されてしまいかねないキスの本来の味を残せるよう、調味ダレはあっさりとしたものにするなどの注意が…」
何をべらべらと口走っているのかと、瞳をぐるぐるさせるが、この場にツッコミは不在、まして自分ではキスの解説を止めようがないセ~クスィ~なのであった。
続く