◇◇◇まもの使いの職業クエストのネタバレを含みます。ご注意ください◇◇◇
プクランド大陸、人里離れた小高いオルファの丘には、まもの使いという職業を広く知らしめんと、クラハなる女性が一念発起して起こしたまもの使いハウスが建っている。
「ふんふん?『まもの使いたるもの、常に笑顔でいることを心がけるべし。作り笑顔でスカウトしても魔物はなびくことはないと心得よ』か。大事だよね~。とびっきりの笑顔の方が、ホイミの効果もたかくなるもの」
下がるにつれ膨らみのある青髪に黄色に統一された服装、失礼ながらどことなくとある魔物を連想させる佇まいの少女、セラフィは、そこの本棚の1冊に書かれた言葉に感銘を受け、にぱっと微笑んだ。
「笑顔の方が、ホイミの効果が高くなる………前に、同じことを言ってた冒険者がいたねぇ。名を…なんて言ったか…」
「やだおばあちゃん。ファーベルの、いえ、私たちの恩人の名前を忘れるなんて。クユリアさんですよ」
「…!」
よもや再びその名を聞くことになろうとは。
セラフィは、もう一つのアラハギーロをより良い国へと導く為、日夜勉強の途中。
その過程で、ホイミスライムからウェディに転生した冒険者がいるという噂を聞きつけていた。
賢者マリーンの協力を得て、レンダーシアの外にまで出向くことがかなうようになったセラフィだが、件の人物が牧場を任されているというガケっぷち村は魔瘴の吹き溜まりと、相反する光の河の双方がほど近く、それらの影響からマリーンの秘術が安定せず、未だ訪ねることが難しい。
「そう、あれは、魔物を兵器に転用しようとした、魔物商人に子どもたちが目をつけられてしまったときのこと………」
渡りに舟とはこのこと、セラフィは少しでもクユリアに関する情報を得ようと、魔物商人によるレンドア襲撃計画の顛末に耳を傾けるのであった。
「お前の手下は、僕の仲間たちがメドウさんと組んで今頃一網打尽にしているさ」
白髪の冒険者が、すらりとバスタードソードを抜き放つ。
悪の野望を打ち砕くべく別行動をとるいつものメンバーの代わりにオーガの少年が連れるは、コートの青が目にも鮮烈なウェディの青年だ。
「そ~いうこと。残るはアンタだけってわけさ」
「ぴき~!!」
コートと同じ青い髪の冒険者、クユリアは相棒のホイミスライム、ホイいちろうとともに並びたち、武器を構える。
「…それじゃあ」
「手筈通りに!」
此度の一件の黒幕、魔物商人デイラーの相手をオーガの少年に託し、クユリアは金色の巨竜に向き合った。ゴールデンキングリザード。
絶大な戦闘能力を誇る、キングリザードの希少種だ。今ここでこの魔物を止めねば、いくらメドウたちがことを上手く運んだとてその努力はレンドアとともに文字通り灰塵と帰すだろう。
セオリーでいけば、二人がかりか、長剣を得手とするオーガの少年がゴールデンキングリザードの相手をするべきところである。
しかし、それではいけないのだ。
『………後生です。キッズを楽にしてあげて下さい』クユリアたちを送り出す際の、クラハの言葉と、悲しげな表情が脳裏をよぎる。
このゴールデンキングリザードももとを辿れば、怪しげな薬により、この洞穴の端で意識を失い倒れているファーベルとの縁を断ち切られ、惑わされている被害者。
彼もまた、助けるべき相手なのである。
「…絶対に、連れ戻す!」
レンジャーの資格を併せ持つまもの使いであるクユリアだからこそ、出来ることがある。
雄叫びが響くも怯むことなく、においぶくろで自身に引き付けて、まもりのきりを振り撒き、するどい爪をひょうひょうと躱す。
「ゴア…ッ!!」
火炎のブレスは打ち消されると悟り、ゴールデンキングリザードは喉奥から引き摺り出したペリットに業火をまとわせ榴弾の如く吐き出した。
「…っ…!重ッ!」
炎はまもりのきりで削ぎ落とされるも、高速で迫るペリットをブーメランで弾く。
2発、3発…
古代文字の刻まれた双刃のようなブーメラン、その独特な形状も幸いし、両の手で握りしめ、ぎりぎりで軌道を逸らすことに成功した。
(…もう1発とか、言わんでくれよ)
しかし、掌の痺れも限界だ。
クユリアの期待虚しく、再び喉を蠢かせるゴールデンキングリザードであったが、急に咳き込むように苦しみだし、膝をつく。
竜の末席に連なるとはいえ、相手はリザード、つまりはトカゲである。
魔力を糧に獄炎を操るドラゴンとは違い、その火炎には生物的なロジックが付きまとう。
果たしてクユリアの読み通り、はらわたに溜め込んだ脂もペリットも使いきり、ゴールデンキングリザードは弾切れに陥ったのだ。
続く