◇◇◇まもの使いの職業クエストのネタバレを含みます。ご注意ください◇◇◇
「…う…ぅ…ん…」
ほぼ同時、狙いすましたかのようなタイミングで、ファーベルが目を覚ます。
「…ぴき~っ!」
クユリアが待ちに待った合図が、ホイいちろうから上がる。
「よくやったホイいちろう!!」
クユリアが単身、ゴールデンキングリザードの注意を引いている間、ホイいちろうはといえば、ファーベルの手当てにあたっていたのだ。
「もう少しの辛抱だからな、キッズ!!」
掲げたブーメランから延伸されるように蒼白い鎖が地に向かい飛び出し、そのまま奥底から冥府の神とも称される幻獣を引き摺り出す。
レンジャーの秘奥義、アヌビスアタック。
しかし、召喚された獣はゴールデンキングリザードに襲いかかることなく、その身とクユリアを繋ぐ鎖で、ゴールデンキングリザードをがんじがらめに縛り付けた。
「さぁファーベル!!見せつけてやろうぜ!君と!キッズの絆ってやつを!!!」
ゴールデンキングリザード、いや、キッズの正気を取り戻せるのは自分ではなく、ファーベル以外に有り得ない。
しかし、それが如何に困難を伴うか。
クラハは勿論、平素、お人好しに手足を生やしたようなオーガの少年ですら、キッズを諦める選択肢を考えた。
だからこそ、クユリアはこの役目を引き受けたのだ。
「はっ…!無駄だ無駄だ!そいつの記憶は、薬で吹き飛ばしてやったんだからな!!」
魔物商人の言葉に、ぴたりとファーベルが動きを止める。
「今更、お前みたいなガキにどうにかできるものかよ!」
とうに決着がつき、オーガの少年に馬乗りに取り押さえられていたデイラーが口だけ達者に勢いづいた。
「くっ…コイツ!」
オーガの少年は失策を悟った。
ファーベルによるスカウトアタックが失敗に終われば、満身創痍のクユリアにゴールデンキングリザードを止める術はない。
加勢しようにも、当て身なり絞め落とすなり、デイラーの意識を奪うにはどうしても若干の隙ができる。
その間にゴールデンキングリザードはレンドアに向かい飛び去るだろう。
この小悪党は、ここが分水嶺だとわきまえているのだ。
ファーベルが逡巡するうちに効果時間が切れ、アヌビスアタックの鎖にヒビが走り始める。
それでもこの場に繋ぎ止めんと、クユリアはその身を呈してキッズにしがみつく。
「ファーベル!やるんだ!!この子を…キッズを助けてやれるのは、君しかいない!!!」
鋭い爪がコートを破り、背を切り裂くも、クユリアはキッズを抱き止める力を緩めはしない。
「オレと…オレとキッズの絆……絶対に…取り戻してみせる………」
きっと面をあげたファーベルの瞳に、もう迷いはなかった。
「そうさ!君なら、君とキッズなら、絶対に出来る!!」
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
乾坤一擲。
果たして、想いを込めた拳は、深く強く、ファーベルとキッズを再び結び付けたのであった。
「…いつか、父さんにもクユリアさんにも負けないまもの使いになってみせる。それが、息子の目標なんです」
「ふわぁ、カッコいいなぁ!」
「…ふふ、クユリアさんは、ピリカちゃんに啖呵を切った手前、キッズも含め全員無事に連れ帰って、格好をつけたかったからだと謙遜されていましたが」
ついつい話に聞き入ってしまい、どれほど時間が過ぎたか。
「おっと…そろそろ時間みたい…」
名残惜しいものの、淡いピンクの燐光が、セラフィの足元に漂い始めていた。
「クラハさん、メドウおばあちゃん、またいつか、遊びに来ますね!!」
じゃあねと元気に手を降って、セラフィがまもの使いハウスを出ると、その姿は夢幻であったかのように掻き消える。
「ああ、いつでもおいで、ホイミスライムのお嬢ちゃん」
「やだおばあちゃん、格好の色が似てるからって…」「ふん…まだまだあんたは、勉強が足りないねぇ」
「えぇ?」
困惑するクラハを他所に、メドウは安楽椅子に揺られ、やがて穏やかにいびきをかき始めるのであった。
~完~