そしてこちらの戦いも、決着の時が近い。
「そぉれですぞー!」
らぐっちょはメラミの一つをサージタウス・マギアの足元に落とし、土煙に紛れて距離を詰める。
そして互いの得物が触れる程の至近距離から放ったは、ドガンテルであった。
炎が土に変わったとて、当然、サージタウス・マギア本体を狙えばマホカンタの壁に阻まれる。
しかし、らぐっちょが狙ったは、サージタウス・マギアの胸を貫く両手杖の石突であった。
散々メラミで探れども、マホカンタの穴はない。
しかし、魔法障壁が展開されるのはサージタウス・マギアの体面からプクリポの身長くらいの距離、つまり深々とサージタウス・マギアを貫く両手杖の下端はその範囲外に飛び出しているのだ。
目標にほぼ零距離から放たれた岩の矢は正確な角度で両手杖を打ち上げ、そのままするりと両手杖はサージタウス・マギアの胴を抜け遥か彼方に押しやられる。「はてさて、内側からでも耐えられますかな?」
ぽっかりと空いた穴にらぐっちょは魔改造プラズマリムーバーを押し込んだ。
たちまち迸る蒼雷、外殻は絶縁されていようとも、内部から直接電撃を放たれればひとたまりもなかろう。
「手こずらせてくれましたが、トドメですぞー!むんむん、にんにきにきにき………かしこみ…かしこみ…」
ガクリと膝をつき節々から黒煙を上げるサージタウス・マギアからやや距離をとったらぐっちょは、畳んだカザミドリを両手で握り、空を掻き混ぜるようにくるくると回しながら何やら胡散臭い詠唱を始める。
『…が…ガガ…再……再再再…再…再起…動…』
「………って、おおお、復旧が早い!?あ~、えっとォ…日は東から昇り西へ沈んで…何だっけ…?」
マホカンタが無くともその装甲は強固、しかるにサージタウス・マギアにトドメを刺すべく大業をチョイスしたらぐっちょであるが、両手杖を無くした今のサージタウス・マギアに防御も攻撃も手段はなかろうと思っていたところ、予想よりも早くよろめきながらも鎌首をもたげたサージタウス・マギアの瞳が煌々と輝き始めたものだから、滝のように脂汗が噴き出す。
「レーザーがくる!らぐっちょとやら!避けろ!!」「これ、悲しいかな、一度詠唱をはじめたら、終わるまで動けないのですぞ!…間に合え間に合え…え~と…東風吹かば………あ、間違えた」
如何に緊迫した状況下であれ、テヘペロは欠かさない。
それがらぐっちょというプクリポである。
「あ~~~ッ、もう!イライラする!」
らぐっちょが間に合わないとみて、りゅーへーよりも一足早く、飛び出したベータが己を盾にせんとらぐっちょとサージタウス・マギアの間に滑り込む。
魔造術でありったけの壁を造るが、おそらくは無駄だろう。
強化される前のレーザーでも、この防壁を容易く穿つ威力を持っていた。
射出機構たるモノアイも大きくなっている分、威力はさらに大きいはずだ。
それでも、己の身も足せば、らぐっちょへの被害は最小限に抑えられるかもしれない。
これは、つまるところ姉さまを裏切る行為になるだろうか。
それだけが心に引っかかる。
しかしそれでも、妹の墓に真摯な祈りを捧げてくれた相手を、無下には出来ぬとベータは思ったのだ。
一つくらい善行は積むものである。
『…攻…禁…………対……ヲ…確………』
魔改造プラズマリムーバーの影響で壊れたサージタウス・マギアのマイクは、システム音声を途切れ途切れに再生する。
聞き取れなかった内容も、臨界を迎えていたであろうに何故だか照射されず霧散したモノアイの輝きも、何もかも考えるのはまた後で良い。
千載一遇の好機を、ただ活かすのみである。
「ん~っ、もう中略以下略ですぞ!…神鳥、召喚!!!」
出鱈目に詠唱を終えたらぐっちょは、射線の邪魔となるベータの背を駆け上がる。
「「略せるんかい!?」」
らぐっちょは既にどうぐ使いを極めた身、神主も含めれば三足のわらじは流石に厳しく、幻魔召喚の体得には至らなかったが、しからばと編み出したオリジナル。
『コケーッ!』
屋根上に立つ風見鶏の如く、ベータの頭に爪先立ってピンと手足を伸ばしたらぐっちょの頭上から、甲高い鳴き声が響き渡るのであった。
続く