「…う~ん…人違いだったか?それとも、早くも理性を無くしつつある?…いや…待てよ、武器屋…武器屋か」
「何ブツブツ言ってるんですか!早く加勢しないと!!」
流石は夜廻が増員されただけのことはある。
いなりとかげろうが轟音を聞き駆け付けた頃、既に現場にはカミハルムイ兵の姿も散見された。
しかし次元の違う戦いにまったく近付けず、ヒッサァの戦いを遠巻きに見守る他なく、近隣住民を避難させるなどの間接的なフォローが精一杯であった。
「槍と槍の間合いに入ればむしろ邪魔になる。お前ほどの腕があってもな。それより…彼奴があの優男を襲っている理由を確かめるほうが重要だ」
かげろうが見て取った限り、攻めよりも守りに舵を切ったヒッサァに当面の命の心配はなかろう。
それどころか、巧みに棍、いや、槍を振るい、武器屋に近づけまいとじわりじわりと圧してすらいる。
しかしダメージとスタミナの残量は明らかにヒッサァに分が悪い。
槍使いの目的を掴み、即解決に至らずともこの場は退散願うが得策だ。
「邪魔するぞー」
ヒッサァの背で無惨に抉れた壁を横目に、かげろうは武器屋の敷居をまたいだ。
「…うおっ!?あ、かげろう様?いなり様も。外では一体、何が起きてるんです?」
刀は自身で手入れするいなりとかげろうなれど、その用具や替えの目釘など、武器屋の世話になることは多い。
当然、店主のズイとも顔馴染みである。
「…それは?」
「アズランのタケトラ様から修繕を依頼された槍です。そもそも、柄が真っ二つに折れた状態で保管されていたそうで…」
全体を覆うは大変な長さ、差し当たり触れざるをえない柄の中央だけを布でくるんだ簡素な包装であるおかげで、槍の形状はつぶさに確認ができた。
そして、くるり振り向けば、同じ槍がヒッサァ目掛けて振るわれている光景が目に留まる。
「槍は2本在った…ふむ…なるほどやはり…店主、これ、借りるぞ」
「は?え、え?」
仮説が確信に近付き、かげろうはむんずと槍を掴み取る。
平素であれば如何にかげろう相手でも預かりの品、断固抵抗する所であるが、ズイもまたこの事態に思考が乱れている、容易く奪われてしまうのも無理はない。
「自己完結しないで説明してもらえませんか?」
「まあまあ待て、落ち着け。まずは確かめるとしようじゃないか」
かげろうはひょいと槍を肩に担ぎ上げ、往来に出て正面、道具屋の屋根上にトントンと駆け上がると、ヒッサァと槍使いを見下ろす場所を陣取った。
「…そこまでッ!!!」
すぅと息を溜め込んでから、辺りの空気がビリビリと震えるほどの大声、更には、懐に持ち合わせるも滅多に使わぬ棒手裏剣を、ヒッサァと槍使い、両者の足元に投擲し、強制的に視線を集める。
「貴様ッ、その槍は!」
「…かげろう様!?」
怒りと戸惑い、2種の鋭い言葉と視線を浴びながらも、かげろうは今更に斜め上を見上げ、ぽりぽりと人差し指で顎をかく。
「…何だったか…カリン…いや近いが違う……む~………ん?そうだ!思い出したぞ!!!」
ようやく諸々の解が示されるのかといなりもまた固唾をのんで見守る中、ピンと人差し指を立てたかげろうは続ける。
「王の名はコウリン。そこから名を賜った将の名が、『凛』」
「貴様、王の名を軽々しく…そして何故我が名を?」かげろうの言葉に皆が小首を傾げる中、槍使いだけが視線を険しくした。
「…どうでもいいだろう。ほら、持っていけ。重くてかなわん」
そうしてかげろうは、あっさりと槍を放り投げてしまうのであった。
続く