「……うん、オッケー!で、お次が本題の……」
リテイク指示がでなかったことにほっと胸を撫で下ろす。
残るは花畑の素描、そこはアストルティアタイムズ所有の土地ということもあり、じっくり構図も吟味できて、これぞという仕上がりとなっている。
「ああ、良いね良いね!バッチリ!!」
果たしてリッカのリアクションは、あげはの自信の通りであった。
「確か、そのレンゲソウの花畑に合わせる記事は、リッカさんが担当されてるんですよね」
「そだよぉ。あ、気になる?気になる?」
さっと顔をのぞかせたリッカは、ニヤニヤと悪だくみするような笑みを浮かべている。
「そりゃまあ……でも、ある程度は予想がつきます」「ほう。言うてみ?」
受け取った原稿をファイルに格納すると、どっしりと頬杖をついてあげはの解答に耳を傾ける。
「レンゲソウは、そもそもこのプクランドには自生していなかった。まだ大地の箱舟もない時代、海を越えるという危険を冒してまで、何故エルトナに渡り持ち帰ったのか」
「うんうん、鋭い。いい線いってるね」
「今となっては民間療法、言ってしまえば眉唾ですけど、当時、レンゲソウの茎は解熱、葉は火傷に効果があるとされていた。故に、生息域を拡げるに至る。そのあたりを掘り下げたのでは?」
史実についてを取り上げるコラムもまた、アストルティアタイムズの人気コーナーである。
「……惜しい!70点……いや、60点!!」
「減点の理由を伺いましょう」
着眼点を見抜く術を磨くことは、ともすなわち他者の興味のツボをよむことに繋がる。
あげはは読解不足を素直に認めると、近くに転がる丸椅子を立て慇懃に腰掛ける。
「次号の発売日は22日、その日はねぇ、なんとアストルティアタイムズが128年前に生まれた日なの~。レンゲソウはその日の誕生花なのよぉ。ここまで気付いていたら80点だったかなぁ」
「残りの20点は?」
「それはねぇ、その日があげはちゃんの誕生日ってこと!」
唐突な公私混同が飛び出して、あげはは目を丸くする。
「あの景色が、お祝いの花束だよ~、なんて、キザなことを言ってみたかったのよさ!あはは!最近、疲れたまってそうだなぁって思ってねぇ。良いリフレッシュになった?」
一面の花畑を思い起こせば、今も甘く優しい花の香が薫る。
穏やかな陽射しの中で筆を運んだ時間は、何ものにも代え難いひとときであった。
自分のことを棚に上げておいて、この人はまったく……
「編纂の作業、あとどれくらい残ってるんです?ちゃっちゃと終わらせて……そうですね、アズランの温泉にでも疲れを流しに行きましょう」
調子にのられては困る。
緩んだ頬は、けして友には見せるまい。
テキパキ動いて表情を隠すあげはの様子を、モモもまた微笑ましく見つめるのであった。
~HappyBirthday~